第30章 映る
……マヤさん、本当に馬が好きなんだなぁ…。
今マヤは、少し離れた池で水を飲んでいる馬たちを見て、ペトラとあれやこれやと会話をしている。
馬の話をしているマヤの横顔がいきいきとしていて、ギータは目が離せないでいる。
「もしかしてマヤ、グンタさんの馬の名前も覚えてるの?」
「うん。ヘパイストス」
「信じらんない!」
エルドの馬のクロノスの名前をマヤが口にしたことで、ペトラは驚いてしまったのだ。そしてまさかと思って訊いてみたグンタの馬の名前も答えるマヤに目を丸くする。
「ペトラだって知ってるんでしょ? じゃあ驚くことないじゃない」
「知らないわよ。エルドさんの馬はクロなんとかだってわかってたけど、グンタさんのとなると全然。へパ…?」
「ヘパイストスよ」
「よくそんな舌を噛みそうな変な名前覚えられるね。それも自分の班の人の馬じゃないし…。まさか調査兵全員の馬の名前を知ってるんじゃないでしょうね!?」
「いくらなんでも全員は知らないわ。会ったことのない子もいっぱいいるし…」
マヤは残念そうに首を横に振る。
「ペトラの言うことはわかるわよ? 舌を噛みそうな名前が多いよね。ハンジさんが言ってたけど、牧場主さんが古代神話の物語が好きでね、物語に出てくる神様の名前をつけてるんだって」
「へ~、神様の名前なんだ。ねぇ、今あそこにいる馬の名前、全部言える?」
「オリオン、ヘラクレス、アルテミス…」
「ちょっと待って。ヘラクレスって?」
「ミケ分隊長の馬よ、ほらオリオンとアルテミスの間にいるわ」
「あぁぁ、あの脚の黒い鹿毛か」
「そうそう。アルテミスの後ろにいるのがクロノスとヘパイストス、今いなないたのがヒュロス、タゾロさんの馬よ。そしてあそこに三頭かたまっているのがグレーノス、マカリア、クテーシッポス」
「新兵三人組の馬ね」
「うん。そしてあそこでじゃれ合っているのがアレナとアレース」
「もう! アレナったらまた、アレースとくっついてる!」
ペトラは自身の愛馬アレナと、オルオの愛馬アレースがじゃれ合っているのを快く思っていないようだ。