第30章 映る
「ふふ、そうね。ちょっと分隊長に進言してくる」
マヤは最後尾のミケのところまで行く。
途中オルオが情けない顔をしながら “休憩はまだグアッ… ガリッ!” と舌を噛んだのは当然見流した。
「分隊長、馬たちに休憩を取りたいのですが…」
「昼もとっくに過ぎてるな…。誰も何も言わなければ、リヴァイは日没まで飛ばしそうだ。マヤ、ここを頼む」
ミケはマヤに殿(しんがり)を任せて、先導しているリヴァイの元へ向かった。
大きなけやきの木の下で、ようやく初めての休憩に入ったリヴァイ班とミケ班。
そばに小さな池もあって、馬たちがごくごくと水を飲んでいる。
「ミケ分隊長が来てくれたときは、正直助かったと思った」
水筒の水を一気に半分も飲み干して、グンタはひと息つく。
「ならグンタが兵長に休憩しましょうって言えばいいだろ。そうしたらもっと早くに休めたのに」
「エルドの方が兵長に近いんだから、エルドが言えばいいだろ」
「言えるかよ。お前も知ってるだろ? 兵長とオリオンのゾーンに入ったときのあの鬼気迫る感じ。あれを俺は後ろで何時間も見ながら走ってるんだ。絶対言えない」
「エルドが言えないものを俺が言える訳ないだろ…」
エルドとグンタがぐだぐだと兵長に休憩を進言できるかどうかを話していると、タゾロがやってきた。
「お前らも人間だったんだな」
「タゾロさん、なんすかそれ」
ひどい言いぐさに頬をふくらますグンタ。エルドは素直に訊き返す。
「どういう意味ですか?」
「リヴァイ班のお前らでも、兵長の爆走についていくのがしんどいんだなと思ってな」
「そりゃそうですって」
グンタがまた水を飲みながら言えば、エルドも。
「兵長は顔色ひとつ変えずに、三日三晩は駆けつづけますから」
「あはは、そうかもな!」
タゾロとエルドとグンタが、楽しそうに笑っている。
少し離れた場所ではマヤとペトラ、オルオ、ジョニーとダニエルにギータの新兵三人組がごろごろと転がっている石に腰をおろしていた。
「水ってこんなうまかったんだな!」
「それな!」
ジョニーとダニエルはありがたそうに、そして美味しそうに水を飲んでいる。
ギータはひとり静かに水筒に口をつけながら、ペトラと談笑しているマヤを見つめていた。