第30章 映る
「ねぇ…、休憩まだ?」
マヤの隣にまた、アレナに乗ったペトラがやってきた。
タゾロが “そろそろ最初の休憩に入るだろう” と言ってから3時間は過ぎていた。
「そうね…、さすがに少し休みたいかな。アルテミス、大丈夫?」
ヒヒン!
アルテミスは目をらんらんと輝かせ、まだまだ走れると返事をしたが、ペトラの馬アレナは少々元気がない。
日の出前の5時半過ぎから走りつづけること7時間、速度は衰えるどころか上がってすらいる。測定している訳ではないので正確な時速など知る由もないが、おそらく5~60キロに到達している。
「大体こんなに早く走っていいの? 点検できてる?」
「どうだろうね…」
ペトラの問いにマヤは頭をひねる。
「つぶさに観察しているものでもないし、走りながら大きな亀裂とかないか…、そういうの見てるだけだし、こんな感じでいいのかな?」
「アレナもアレースも、ばててきてる。なんでアルテミスはそんな平気なのよ」
「クロルバに帰るときは、もっと早く走ったりしてるから…」
「え! マジ?」
「うん。このあいだ兵長と帰ったときね…、遺族訪問の…」
「あぁ、うん」
「そのときも兵舎からずっと、ほぼ全速力で駆けどおしだったから」
「そうなんだ。オリオンはわかるけど、アルテミスもすごいんだね!」
ヒヒーン!
ペトラに褒められて、アルテミスは誇らしげにいなないた。
「いやホントすごいわ。このスピードで走りながら鳴く余裕」
「アルテミスは走るのが好きだから。でも…」
マヤは思慮深い顔をした。
「最初はゆっくりだったのは壁の目視点検のためだと思ってたけど…。結局早く駆けても点検はできるということなのかしら? 今のスピードになってから、かなり時間も経っているわ。さすがに馬たちに水を飲ませないと…」
「マヤ! 馬というか人間が休憩したいから…!」
ペトラの悲痛な叫びが草原に響いた。