第30章 映る
全周遠征訓練に参加したのは第一分隊第一班通称ミケ班とリヴァイ班。
当初の予定では第一班と第二班だったが、リヴァイの強い要望で第二班の代わりにリヴァイ班が行くことになった。
ちまたでは “生贄” とも噂される苦行でしかない訓練を、どういう理由でリヴァイが引き受けたのかは明らかにされていないが、調査兵団の全員が口にこそしないがその理由を知っていた。
最初は行ったことのないクロルバ区やユトピア区に行けるかもしれないと、すっかり観光気分で喜んでいたペトラ。だがハンジをはじめナナバやニファに “全周遠征訓練に駆り出される者は生贄と呼ばれる” と教えてもらってからは、楽しみ半分不安半分だったのだ。
そして出発から4時間が経ち同じ景色を駆けるだけの状況に嫌気がさしてきた。
だから前を走っているマヤにほんの少しだけ、不満の矛先を向けたくなった。
……だってマヤが元々この訓練を希望したっていうじゃない。そして兵長が何がなんでもマヤと一緒に行きたいから、こんなことに…!
そう思った次の瞬間には愛馬アレナをアルテミスの横につけていた。
しかしマヤと言葉を交わせば、嫌な気持ちも吹き飛んだ。
……悔しいけどオルオの馬鹿のおかげもあるかもね。やっぱり黙々と走るより、こうやって話せたら楽しい!
ペトラの機嫌がすっかり良くなったところへ、タゾロが注意をしにきたのだった。
今この隊列は先頭にリヴァイ、つづいてエルドにグンタ、ジョニー、ダニエルが等間隔で一列で駆けていた。それが先頭集団だとすると、最後尾のダニエルから少し間隔があいてマヤを先頭とする第二集団が、ペトラ、オルオ、タゾロ、ギータ、そして殿(しんがり)をミケが務めていた。
先頭のマヤのところにいつの間にやらペトラとオルオが横並びになって、おしゃべりをしながら駆けつづけている状況をタゾロは見過ごせなくなって追いついてきたのだ。
「ひとことも話すなとは言わんが、同期で群がって終わりの見えない会話は今は控えろ。下の者が見ているんだからな」
「「「すみません!」」」
「そろそろ最初の休憩に入るだろう。そのときは俺もおしゃべりに混ぜてくれ」
「「「了解です!」」」
三人の気持ちのいい息の合った返答ににこっとうなずいて、タゾロは後ろに下がっていった。