第30章 映る
「旅行気分なんてことはないけどさ…」
罰の悪そうな顔のペトラをはさんでオルオとマヤは、それぞれの愛馬アレースとアルテミスで快調に走っている。
「マヤ、俺はこの何もないずっと同じ景色をアレースと駆けるの、結構気に入ったから」
「うん、私も」
「壁の点検っていっても大きな異変がないか見るだけなんだし楽勝。まだ昼にもなってないのに文句言うやつの気が知れねぇわ」
「文句ってほどのことでもないわ、ペトラの場合。ちょっと疲れてきただけよ、きっと」
「……かもしれないな。飽きっぽいし」
真ん中を走るペトラは、左右から飛んでくる声… それも自身のことを会話しているオルオとマヤにブチ切れた。
「ちょっと! 私を無視して両サイドで話さないでくれる? 私だってアレナと走るの楽しんでるし、ちょっと同じ景色だな~って思っただけなんだから!」
「楽しい? ほんと?」
「ほんとだよ! 寄るかどうか知らないけど、マヤの故郷のクロルバ区を通るのも楽しみだし」
「ありがとう。私もカラネス区に行けたらいいなぁって思ってる」
「もしカラネスに寄るなら、時間があったらうちに来てほしいな」
「うん、それは私の方もよ」
「うわ~、なんか本当にすごく楽しくなってきた!」
すっかり不平不満を忘れた様子でペトラは明るく笑っている。
それを隣で見ていたオルオは “単純なやつ” と思いながらも、そこが愛おしくてたまらない。
「俺もマヤんち、行きてぇ。紅茶飲ませてくれるか?」
「うん、分隊長の許可が出るならいいよ」
「え~、私も飲みたい! なんかすごい喉が渇いてきた!」
叫ぶペトラにオルオはあきれたように返す。
「気のせいだろ」
「気のせいじゃないってば! 朝から何も飲んでないんだし」
「でもいつも訓練のときは、これくらいの時間全然水を飲まないのなんて普通だろ」
「私はその “いつもの訓練のとき” も喉が渇いてんの!」
ペトラとオルオが安定の言い争いを始めて、マヤがひとりで微笑んだときに。
「おいおいお前ら、ちょっとしゃべりすぎだぞ!」
後方を走っていたタゾロがやってきた。