第15章 壁外調査までのいろいろ
「な? ちっぱいだろ?」
「ち… ちっぱい…?」
聞き慣れない言葉にマヤはおうむ返しをしてしまう。
「うん、私みたいな小さなおっぱいは “ちっぱい”、マヤみたいな大きなおっぱいは “おっぱい” !」
「はぁ…」
ナナバは屈託なく笑いながら、今度は肩をぐるぐるとまわし始めた。
「でも、ナナバさんの胸は形がすごく綺麗です!」
「あはは、ありがと! でもマヤも形は綺麗だよ。その上でかいし完璧だよね~、いいなぁ!」
「そんな… 別にいいことなんて何もないですけど…」
「うん? 今まで胸がでかくて得したことない?」
「はい」
「ふぅん。ま、これからだよね! 彼氏でもできたら… そのときそのでかい胸が役に立つから!」
ナナバの言葉にマヤは顔が赤くなるのがわかった。
「でもアレだね、彼氏ができるのはまだまだ先だよね! マヤは」
「どうしてですか?」
「だってさ… 聞いたよ! 飲み会でみんなのこと好きだ好きだって言いまくったそうじゃないか」
「え…!」
「そんなみんなが好きだとか言ってる間は、恋人なんかできっこないって!」
「……誰に聞いたんですか…」
マヤはそう訊きながらも、眼鏡をかけた人物がにししと笑っている姿がありありと目に浮かんだ。
「え~ ハンジさんだけど」
……やっぱり。
「あの… あれは酔っぱらってしまって…」
赤い顔で弁明するマヤの肩をバシッと叩いて、ナナバは笑った。
「わかってるって! …でもさ ほんとのところ、気になる人はいないの?」
「……気になる人… ですか?」
「うん。好き!って人はいなさそうだけどさ、気になる…くらいの人ならいるんじゃないの?」
……気になる人…。
さっきマーゴさんにも同じことを訊かれたな…。
マヤはそう思いながら、両手で湯をすくった。
湯をすくったまま、ぼうっと考え事をしている様子のマヤを見てナナバも同じように湯をすくう。
「こうやったら… 好きな人が映るんだったらいいのにね」
「ナナバさん…」
「誰か映った?」
手許の湯は薄暗い灯りの下で揺らめいている。
黒い影が映ったような気がした瞬間、指の隙間から湯はこぼれ落ちてしまった。