第30章 映る
「どうだ? やってみるか?」
「私は遠征は全然苦にならないからいいんですけど…。去年第三分隊の第五班と第六班がやったってことは、班単位の任務なんですよね?」
「あぁ、そうだ」
「私の希望でタゾロさんたちが生贄になるのは気が引けます…」
「ラドクリフの前はハンジの班から生贄を出したし、どうせ今年は俺のところから出さなきゃならないだろうから、気にするな。それに希望するのがマヤただ一人だったとしても、全員が嫌々行くよりはマシだ。意味のない訓練に少しでも希望が…、いや違う。あのウォール・マリアが破られたんだ。真剣にウォール・ローゼを点検しないといけない。意味のない生贄訓練とは違う」
「そうですね、私やります」
「よし、じゃあ俺たち第一班と第二班で今年はやるとエルヴィンに言っておこう」
「了解です…!」
マヤはなんだかワクワクしてくる。
……アルテミスと七日も一緒に走れる。それも壁外調査じゃないんだから、巨人に遭遇することもないんだし、楽しそう!
「七日かかるって話ですけど、街に泊まるんですか? 野営?」
「あぁ…、今は六日だ。七日だったのはウォール・マリアの陥落前。マリアは距離があるから六泊七日のコースだった…」
バーン!
ミケの言葉をさえぎるほどの爆音を轟かせて、執務室の扉がひらいた。
「モブリットが来てないかい?」
「来ていないが。……ったくリヴァイといいハンジといいノックしろ。驚くだろうが…」
ミケの苦言は完全スルーで、ハンジは首をかしげた。
「エルヴィンとこにはいないし、リヴァイの部屋は鍵がかかってるし、ここにもいないと。あとはラドクリフのところ…? いや意外と自室だったり…?」
ぶつぶつとモブリットの居場所を推理しながら、ハンジはミケが手にしている書類に目が行く。
「うん? それなんだい?」
勝手にミケの背後にまわって、それが全周遠征訓練の通達書だと知るとモブリットのことはすっかり忘れたかのように話し始めた。
「ついに来たね、この季節が。順番からいけば今年はミケんところから生贄選出かな」
「それなんだが、生贄ではなくマヤが喜んで行きたいそうだ」
ハンジは眼鏡の奥の瞳を目いっぱい見開いてマヤに訊く。
「マヤ、いいのかい? なんの面白みもないキツいだけの苦行だよ?」