第30章 映る
「はい。リヴァイ班のみんなもリックさんの大技を見て大興奮でしたし、もちろん紅茶も美味しいし最高でした」
「大技…?」
「リックさんは “紅茶の魔術師” と呼ばれていて紅茶を高いところから注いだり、ティー・ロワイヤルといってブランデーをかけた角砂糖に火をつけたりするんです」
「面白そうだな」
「最高ですよ? そういえば分隊長は行かないんですよね、カサブランカ」
「俺は紅茶より酒がいい」
ミケはくいっと酒のグラスをあおるしぐさをしてみせた。
「なるほど…」
「わざわざ専門店に行ってまで紅茶は飲まないな…、あっ」
ミケはハッと気づいた。マヤの実家が紅茶屋を営んでいることを。
「……すまない。紅茶は無論好きなんだが…」
「大丈夫です、気にしないでください。分隊長がお酒の方がいいというのはわかりますよ?」
「そうか?」
「ええ。兵長の方がめずらしいタイプのような気がします」
「あいつは酒も紅茶と同じくらいに好きだからな。俺やエルヴィンはもっぱら酒だから紅茶専門店には行かないし、ハンジは実験に忙しくて行かない。ラドクリフは…」
「お花のお世話で忙しいから行かない… ですよね?」
「はは、そうだ」
ミケとマヤは共通認識を確認し合う。
「……リヴァイが紅茶狂いで良かったな。マヤにうってつけじゃないか」
「ふふ、そうですね」
「今ここにリヴァイがいなくて残念だ。紅茶屋の娘のマヤと紅茶狂いのリヴァイはお似合いだと、からかってやったのに」
「きっと眉間に皺を寄せて、分隊長のことを睨みつけると思います」
「だろうな…」
ミケとマヤはリヴァイの不在を淋しく思った。
「分隊長、私たちの遠征訓練は次はいつでしたっけ?」
馬好きなマヤは、馬術訓練も遠征訓練も楽しみにしているのだ。
「来週だ。マヤは変わってるな、馬術はともかく遠征は敬遠されるのに」
「それ、なんででしょうね? 馬で遠くへ行けるなんてご褒美でしかないのに…」
「尻は痛くなるし、どうしても時間がかかって帰舎が遅れるから、メシを早く食えないからだろうな」
遠征訓練を嫌がらないマヤは、そんなことは何ひとつ理解できないといった顔をしている。