第30章 映る
「何がなんでも絶対来るのをたとえた言葉を使いたかったんだ。雨が降ろうが…?」
つづきが出てこなくて考えているミケに、マヤが答えを告げた。
「あっ、わかりました。雨が降ろうが槍が降ろうがじゃないですか?」
「それだ。今日はさすがに来ないよな?」
「無理ですよ、遠征訓練ですもの」
この日リヴァイ班は遠征訓練に出ているのだ。
遠征訓練は馬場でおこなう馬術訓練と違って、壁内遠方にある巨大樹の森まで馬を駆り、帰ってくる訓練だ。長時間の騎乗と班の連携の確認、そして何よりも馬の運動不足およびストレス解消を目的としている重要な訓練である。
「いやでも、リヴァイのマヤへの執念は凄まじいものがあるからな…」
「私へのじゃなくて、紅茶ですよ」
「確かにあいつの紅茶への執念はものすごいものがある。そういえばどうだった? リヴァイ班と行った “カサブランカ” は?」
前日にやっと、リック・ブレインの紅茶専門店 “カサブランカ” へ、リヴァイとリヴァイ班全員で行ったのだ。リックからのお礼の紅茶を飲みに。
「なかなか全員の調整日が揃わないし、兵長は当日に行って席がないのは困るから予約すると言ってきかなくて…」
「その予約をするためにマヤと二人で行ってたよな…」
どんなことにでも理由をつけて、マヤと一緒に出かけようとするリヴァイの健気さにミケは苦笑する。
「そうなんですよ…。リックさんは当然その私と二人で行ったときに兵長にお礼をしようとしたんですけど、“今日は礼の日の予約に来ただけだから” とお礼を断って、ややこしいのなんのって。でも…」
とびきりの嬉しそうな声でマヤはつづけた。
「カサブランカに何度も行けて、美味しい紅茶を飲めて… 私としてはすごくラッキーでした」
「そうか、良かったな」
紅茶を愛しているマヤにはさぞ楽しい時間だったに違いないと、ミケは思った。