第15章 壁外調査までのいろいろ
すべてを脱ぎ捨て浴場の扉を開けると、頭のてっぺんから足の爪先までもわっとした高い湿度と温度に包まれた。
空いている洗い場に向かいとりあえず湯を浴びれば身体の隅々を流れる熱さの感覚に、はぁっと思わず吐息を漏らす。
……気持ちいい。
二日ぶりの熱い湯の感触は、何物にも代えがたいものだった。
しばらくその陶酔にも似た感覚を味わっていたが、満足したのか湯を止め、持参の石けんを泡立て始めた。
たっぷりのきめ細かい泡で髪を包みこむ。そして顔、耳、首と丁寧に洗ったら、一度熱い湯で流した。
次に胸元から順番にもこもこの泡をすべらすようにして、全身をくまなく洗う。
時間をかけて丁寧に洗い終え髪の水気をキュッと絞ると、頭の上にタオルで一つにまとめた。
……よしっ。
洗い終わってさっぱりしたマヤは怠かった身体も軽くなり、もやもやしていた頭も気持ちも綺麗さっぱり泡と一緒に流れてどこかへ消えてしまった気がした。
広い湯船にそっと右足の先を浸けてみる。
熱すぎることもなく、ぬるすぎることもない。
絶妙な湯加減にマヤは我知らず微笑み、そのまま身体を沈めた。
マヤがいつも入る湯船の場所は、入り口から見て左奥の角あたりだ。
今もその場所に、ちんまりと膝を抱えて座っている。
……ふぅぅっ…。
あぁ、気持ちいい。
今日はなんだか長かったような短かったような…。
色々な人の声がよみがえる。
……じゃあ、巨人の生け捕りにマヤも賛成ってことでいいね!
……いいから早くミケさんのところに行け。
……マヤ、左のこめかみが相当痛むだろう?
……ゆっくり休め…。
見慣れた浴場の湯煙の向こうに、あたかも今去っていくように遠ざかる背中がマヤには見える。
……今は… 考えたくない…。
リヴァイ兵長の背中を無理やり振り払うと、マーゴの声を意識してよみがえらせた。
……マヤ、あんたのことが好きなんだよ。
ジムさんが? まさか… ね…。
ちょうど良いお湯の温度に身をゆだねながら様々な想いを持てあまし軽く目をつぶる。しばらく頭を空っぽにしてそのままでいると、抗えない眠気が襲ってきた。