第15章 壁外調査までのいろいろ
「あの子はね、好きな女にはどうしたらいいかわからなくて、そういう態度を取ってしまうんだよ」
「………」
それでもマヤは、そんな話は到底信じられないと内心思った。
マーゴはそんなマヤの心の内を見透かしたようにニヤッと笑うと、立ち上がった。
「邪魔したね」
厨房に戻っていくマーゴのふくよかな背中を戸惑いの目で見送っていたマヤだったが、手許に目を落とすとスプーンを手に取りスープを飲み始めた。
……ジムさんが私を好き?
あの日怒鳴っていた彼の顔が浮かぶ。
……マーゴさんの勘違いだわ。
そんなことをあれこれと考えながら食事を終えたマヤは、食器を返しに厨房に行く。
「ごちそうさまでした」
洗い物は終わり、明日の朝食の支度をしていたマーゴは顔を上げた。
「あいよ!」
食器を受け取りながら、マーゴは片目をつぶった。
「さっきは変なこと言ってすまなかったね 。まっ、心の片隅にでも留めておいておくれよ!」
「はい」
マヤがぎこちなく笑うと、マーゴも白い歯を見せる。
「おやすみ、マヤ」
「おやすみなさい」
厨房を出ると、食堂にはもう誰もいなかった。マヤは席に置いていた入浴セットを手に大浴場へ向かう。
道すがら夜空を見上げると、瞬く星の美しさに目を奪われた。
……綺麗…。
足を止めしばし星空に見惚れていたが、はっと気づく。
……早く お風呂に入らなくちゃ。
昨日は風呂に入っていないのだ。
マヤはそのことを意識した途端に、居ても立ってもいられなくなり駆け出した。
一般棟から数分歩いたところにある大浴場は、一度に二十人程度が浸かることのできる浴槽が、男女それぞれ一つずつある。
大浴場に到着したマヤが脱衣所へ入ると、ピークの時間は過ぎたのか誰もいなかった。
ただ脱衣籠の幾つかが使用されているので、浴場には人がいるらしい。
耳を澄ますと、お湯を使う音が聞こえた。
その音を耳にした瞬間、一刻も早く湯を思う存分に浴びて汚れを落としたいという強い思いに駆られ、急いで兵服を脱いでいく。