第29章 カモミールの庭で
そう、リヴァイは知っていたのだ。
リヴァイの目の前で顔を輝かせてカウンター席を、憧憬のまなざしで見ていたマヤ。唯一空いているテーブル席を眺めては無難にそちらを選ぼうとしているが、やはりカウンターが気になるらしく決めかねている。その様子からカウンター席に座るということに、かなりの憧れを抱いていると手に取るようにわかった。
だからリヴァイはカウンター席にマヤをいざない、他の男の目から隠すように端の席に押しこめたのだ。
このリヴァイの心と行動を知っているのは、少し離れたところに素知らぬ顔をして立っているバーテンダーの男。
「食事のメニューを頼む」
リヴァイのひとことでバーテンダーは “お待ちを” と一瞬姿を消した。
すぐにホールスタッフらしき黒いギャルソンエプロンを身に着けた男性をともなって戻ってきた。
「こちらになります」
ギャルソンエプロンの男はメニューブックをカウンターに置くと、すっと身を引いて静かに立っている。
客にゆっくりと選んでもらうために離れ、また注文が決まったそのときには即座にそばに寄れるような、いい塩梅の距離だ。
リヴァイとマヤのあいだに置かれたメニューは、見開きいっぱいに優雅な字体が踊っていた。
「うわぁ、色んなお料理がありますね!」
鶏肉だけでも骨付き肉のガーリックソテーや串焼きのアボカドディップ添え、チキンカツレツのオレンジソース、チキンピカタにカチャトーラと種類が豊富だ。
「兵長…、カチャトーラってどんなお料理ですか?」
マヤが無邪気に訊いてくるが、リヴァイも酒のつまみ以外の料理のことなど全く詳しくはない。
「さぁな…」
とつぶやきながら、一瞬だけギャルソンエプロンの男に視線を送った。こういうとき気の利く店ならば、さりげなく客の疑問を解決してくれるもの。
その期待は素早く鮮やかに応えられた。
音もなく男は近づき、余計なことは一切言わずに料理の説明だけをすると、また静かに後ろに下がる。
「カチャトーラは鶏肉と季節の野菜のトマト煮込みでございます」
「美味しそう…! 私、それにします」
「あぁ、なんでも好きなものを頼めばいい」
「じゃあこの…」
マヤが嬉しそうにメニューブックを指さし、リヴァイが目を細めて聞いている。