第29章 カモミールの庭で
リヴァイが “どうする?” とひどく甘い顔で訊いてくる。
店内を見渡したマヤの心の中では、声がうるさい。
……どうしよう? いつもだったら迷わずあの空いている奥のテーブル席なんだけど。
四人掛けのテーブルと椅子が三組と、六人が横一列に座れるカウンター席。テーブル席はもう奥の一つしか空いていない。だがカウンター席はまだ誰も座っていなかった。
……カウンターに座ってみたいけど、あそこはお酒を飲む人の席よね…? 兵長や団長が座ったらさまになるけど、私にはまだ早いような…。
でも一度でいいから座ってみたい…!
マヤがテーブル席とカウンター席の双方に目を泳がせて内なる心の声に葛藤していると。
「こっちがいいんだろ?」
と、リヴァイが先にカウンターの左端から二番目の席に座った。
「……はい」
切れ長の目にうながされて、一番左のスツールに腰をかけた。
目の前の壁一面に、たくさんの酒瓶が並べられている。天井から吊るされたランプの光があまたのガラス瓶を煌めかせて美しい。
マヤが座った席は端なので、左は壁で誰もいない。右を向けばリヴァイで視界はいっぱいになる。わざわざ体を大きく後ろに振り向かなければ、他の客は見えない状況だ。
これは逆にマヤを他の客から隠したいというリヴァイの独占欲の表れでもある。
そんなこととは露とも知らずに、マヤは無邪気に前方の酒の種類の多さに目をみはっている。
「……すごいわ。見たこともないお酒がいっぱい!」
ランプのほのかな光が紡ぎ出す落ち着いた空間。黒檀一枚板で仕上げてあるカウンターの美しい縞模様がもたらす上質感。ランプの光を煌めきに変えている美しいガラス製の酒瓶と、静かな微笑みをたたえて立っているバーテンダーの姿を目の当たりにして感じる高揚感。
そして何より好きな人に囲われるようにして座っている狭い席の特別感で、マヤはめまいがしそうだ。
「一度でいいからバーのカウンター席に座ってみたかったんです」
「知ってる」
ひとことだけ答えるリヴァイの低い声が、耳に心地よく響く。