第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「……これは?」
小さな紙袋を受け取り中身を覗きながら、マヤは訊く。
「……草?」
つい本能的に鼻を近づけ匂いを嗅いで、軽く皺を寄せた。
その様子を見ていたヘングストが、ふぉっふぉっと笑った。
「そいつはドクダミを乾燥させたものじゃ」
「ドクダミってあの道端にある?」
「そうじゃ。ドクダミは十薬ともいうてな、馬に与えたら十種類もの効果がある薬草なんじゃ。もちろん人間にも良薬なんじゃぞ」
「確か祖母のお友達が、煎じて飲んでいた記憶があります」
「そうじゃろ? 身体の悪いもんを全部排出してむくみ解消、便秘解消、血流改善! この独特の匂いも薬じゃ思うたら納得じゃて」
ヘングストはお茶目に片目をつぶってみせた。
「なんにでもよう効くからのぅ、アルテミスが辛そうにしとったら食わせてやれ」
「わかりました。ありがとうございます」
ブルブルブルブル。
アルテミスが鼻を寄せてきた。
「駄目よ、アルテミス。これはお薬よ」
「好き嫌いがあるが、ドクダミが好きな馬はとことん好きじゃからのぅ」
「そうなんですか」
「いくらよく効く薬草でもな、この匂いじゃて。そっぽ向く馬もいるにはいるんじゃ。どうやらアルテミスは好きみたいじゃから、食わせるのに苦労はせんのぅ」
「ふふ、良かったねアルテミス。もし船に酔っても、これがあるから大丈夫よ」
ブルルル、ブルッブルッ!
アルテミスは今すぐに食べたいと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「アルテミスの具合は?」
ゆるりと歩を進めながら、リヴァイが訊く。
「随分といいみたいです。ね、アルテミス?」
オリオンと並んでかっぽかっぽと草原を進むアルテミスは、ご機嫌な様子で足取りも軽い。
「ヘングストさんに頂いたドクダミがよく効いたのね」
「それなんだが…」
リヴァイは下船直後のアルテミスの様子を思い出しながら、ゆっくりと意見を述べた。
「その草欲しさに、大人しくしてたんじゃねぇか…?」
「……それ、私もちょっと思ったんですけど…」
アルテミスは違う違うと言うように、ブルブルと首を左右に振っている。
「でももしそうだったとしても…。元気な状態で食べても問題ないみたいだし」
「そうなのか?」
「ええ。ヘングストさんにドクダミをもらったあとでラドクリフ分隊長にも会ったんです」
