第29章 カモミールの庭で
その様子を少し離れた位置で見守っていたギャルソンエプロンの男が、そろそろ頃合いだと近づいた。
リヴァイが注文をすると、スマートな所作で “かしこまりました” と承り厨房へと消えた。
と同時に、バーテンダーがすっと前に来る。
今度は酒のオーダーだ。
……いつもだったらエールだけど…。
目の前の壁に居並ぶキラキラと光る酒瓶たちが、マヤは気になって仕方がない。
「いつもと違ったお酒を飲んでみたいけど…、全然わからなくて」
「難しく考える必要はねぇ…。要は紅茶と一緒だ」
「……紅茶?」
マヤは不思議そうな顔をしたが、すぐに。
「あっ、そっか…。初めてのお店で右も左もわからないときはマスターのオリジナルブレンドか、おすすめの紅茶を飲むのが一番…!」
嬉しそうに笑う顔が、リヴァイには仄暗い店内で唯一そこだけ光り輝くスポットになる。
「あぁ、そういうことだ」
マヤにささやいてから、バーテンダーに注文した。
「料理に合う酒を。彼女には口当たりの軽いものを頼む」
「かしこまりました」
バーテンダーは手際よく動いて、さっとグラスを二人の前に置く。
「まずはアペリティフをどうぞ。梅の実を漬けこんだシェリー酒です」
小さなシェリーグラスを満たしているのは、キラキラと光る琥珀色のシェリー酒。大きな梅の実が沈んでいる。
「梅の実ですって!」
良い香りの酒が運ばれてご機嫌なマヤだったが、ふっとあることに気づき首をかしげた。
「私のと兵長のと…、色が違う…」
マヤのグラスの酒の琥珀色は薄く、リヴァイのは濃い。琥珀というよりはマホガニー色だ。
「使ってるシェリー酒が違うんだ。マヤのは軽いフィノだろう、恐らく。俺のはオロロソかパロ・コルタドか…」
「ご名答、オロロソです」
さりげなく答えをくれたバーテンダーにマヤはとびきりの笑顔を見せた。
「美味しそうです! ありがとうございます」
「ぜひ梅の実もお召し上がりを。種は抜いてありますので」
「……はい!」
初々しい態度で返事をするマヤに微笑むと、バーテンダーは他の客の酒を作り始めた。
「飲もうか」
「はい。お疲れ様です」
二人は向かい合い、グラスを掲げて微笑んだ。