第29章 カモミールの庭で
「あの派手なお店の先です」
ド派手な色彩の看板のショーパブの手前で辻馬車をおりたリヴァイとマヤ。
「えっと… 一、二、三、四、五…。ここです、カッシーナ!」
リーゼにすすめられたダイニングバーに案内しようと、リヴァイの一歩前を歩いていたマヤが店を発見できた喜びいっぱいの顔で振り返った。
その顔と、指さした店とを交互に見てリヴァイは。
「随分と落ち着いた店だな」
周囲は、目印にしたショーパブに代表されるような目がチカチカする色の看板の店ばかりなのに、カッシーナはそもそも看板とはいえないようなシンプルな木札が、ひっそりと扉にかけられているのみ。
隣の店は看板のみならず壁までが、どぎつい桃色にべったりと塗られているのに対して、カッシーナはごくごくシンプルな一般の家としか思えない生成り色をした漆喰の壁。
「普通のおうちみたいですよね。リーゼのおすすめだから、きっと間違いないと思います」
「それは楽しみだな…。入るか」
「はい!」
ドキドキしながら押した扉の向こうには、想像どおりの素敵な空間が広がっていた。
ぽつんぽつんと効果的に吊るされたランプが、少しほの暗い落ち着いた雰囲気をかもし出している。
バーカウンターとテーブルのどちらも、上質な黒檀で統一されている。セピア色のランプの明かりを受けて放つ黒檀独特の渋い光沢と深みは、店内をシックにグレードアップするのに大いに貢献していた。
椅子は皮張りの重厚なものが選ばれていて、座る前から座り心地が良いのがわかる。
リヴァイとマヤの来店に気づいたバーテンダーが、その微笑みだけで見事にウェルカムの意を表した。
「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ」