第29章 カモミールの庭で
そっと観葉植物の葉のあいだから様子をうかがえば、予想どおりに階段から下りてきたのはリヴァイだ。
……あれ、兵長一人だ。
だがすぐに、リヴァイより重量感のある足音が響いてエルヴィンが下りてきた。
息をひそめるマヤの耳に、エルヴィンの張りのある声が届く。
「ナイルが出られるまでまだ時間がかかりそうだ。下の部屋で待機しよう」
……やっぱり三人で食事に行くんだわ。
そう思ったのと同時にマヤにだけ特別に聞こえる靴音が近づいてきた。
「……何をしている」
「よくわかりましたね…。ここにいるの…」
「当たり前だろうが。これで隠れたつもりか」
その声も投げる視線も優しい。
「同期はどうした?」
「会えました。久しぶりに話せて楽しかったです」
「俺はてっきり晩メシを食うのかと思っていたが…?」
「あはは…、ふられちゃいました。急に会いに行ったから仕方ないです」
「わかった」
リヴァイは立ち止まっていたエルヴィンの方を振り向く。
「俺は行かねぇ。マヤとメシを食う」
「ナイルがリヴァイと飲むのを楽しみにしていたぞ?」
「そんな訳あるか。薄ら髭の相手はお前一人で充分だ」
「ははは」
リヴァイとエルヴィンのやり取りをハラハラして見ていたマヤが、リヴァイの袖を引っ張る。
「私、一人で大丈夫ですから…。ナイル師団長と行ってください」
「……あ?」
不機嫌そうにリヴァイの眉が跳ね上がるのを見て、エルヴィンがマヤに声をかけた。
「マヤ、リヴァイと二人で行っておいで」
「えっ、でも…」
「だとよ、行くぞ」
今度はリヴァイがマヤの腕を引っ張って、強引に憲兵団本部の外に連れ出した。
二人の後ろ姿を見て微笑む。
「久しぶりにナイルとゆっくり飲むのも悪くないかもな」
リヴァイが通りかかった辻馬車を拾ってマヤと乗りこむのを見届けてから、まだ階上にいるナイルを待つべく一階の応接室に向かうエルヴィンだった。