第29章 カモミールの庭で
憲兵団本部に到着した。
マヤは玄関ホールの隅の壁際に置かれている、大きな観葉植物の鉢植えのわきに立っている。
リーゼがうろうろしている憲兵の一人をつかまえて情報収集したところによると、兵団合同会議は予定どおりの時刻に終わったらしいのだが、ナイル師団長とエルヴィン団長およびリヴァイ兵長は、まだ会議室から出てきていないとのこと。
報告書を書かないといけないからと、リーゼは階上に行ってしまった。
会議室の前で待てば? 案内するよというリーゼの申し出を断って、マヤはここにいる。
……ここからだったら状況を見て、そっとこの場を離れることもできるから。
兵長は同期と楽しめ、遅くなるなと言っていたわ。私と食事をするつもりはないはず。師団長や団長と飲みにいくのを邪魔したくないもの…。
階段からざわめく気配がして人が下りてきた。
ハッと身をかたくするが、見知らぬ兵士だ。
その兵士二人は談笑しながら玄関から出ていった。2メートル近くある背の高い植物のかげに立つ背の低いマヤには、全く気づいていない。
何度か兵士が通りすぎたが誰にも気づかれることはなく、マヤは段々と自身が壁の一部になったのかと錯覚してくる。
……まだ会議室にいるって言ってたけど、もしかしてもう出ちゃってる?
そうならば、ひとりここで待っていても馬鹿みたいだ。
……宿に帰って、近くの食堂で簡単に済まそう。リーゼが教えてくれたお店には、またいつか行けばいいわ。
そう決めて一歩動こうとしたときに、また階段から靴音が。
……あっ、兵長だ!
姿が見える前から、靴音でわかってしまった。
どこが他の人と違うのかと訊かれても、うまく答えられない。ただ、なぜだかわからないがコツコツと響く靴音を耳にした瞬間に確信したのだ。