第29章 カモミールの庭で
「派閥の名前はともかく本当に人気があって、今年の新兵のなかにもファンの子がいるみたいだし」
「へぇ、そうなんだ。まぁパッと見じゃわからないこともあるよね。うん、わかった! おっさんって言ってごめん」
さっぱりとしたリーゼらしく、さらりと謝る。
「……で、どっちなの?」
「……リヴァイ兵長…」
「そうか~。じゃあマヤはさっき言ってた “兵長派” だってことね。マヤのことだから陰から見てるだけなんだろうけど、ぼやぼやしてたら誰かがかっさらっちゃうよ!」
「あの…」
「そうだ! 今がチャンスじゃない? せっかく任務で一緒に来てるんだから、今夜ごはんに誘えば? 私がムードのいい店を教えてあげるからさ」
「リーゼ!」
「うん? 何、恥ずかしいの? 気持ちはわかるけど、思い切って行動に移さないといつまでたっても片想いのままだよ。ちょっと待って、今ベストな店を…」
リーゼは大事な友達の恋を成就させようと、一肌脱ぐ気満々だ。
「違うの、兵長とはもうつきあってるの…!」
「なんだ早く言ってよ。つきあってるんだ…、えっ? つきあってる? マヤと兵長が?」
あらためて言葉にされると、とんでもなく恥ずかしい。
マヤは全身が真っ赤に火照った感覚のまま、こくこくとうなずいた。
「すごいじゃない! 好きな人がいるって言うから、てっきり恋心を自覚しただけの状態なのかと思った。マヤが積極的で嬉しいよ、おめでとう!」
拍手までされて困ってしまう。
「ありがとう…」
「……で、どうなの? あの怖そうな兵長とつきあうって想像できないけど…。あっ! 今回一緒に王都に来てるのも、任務にかこつけて実はデートだったりする?」
「そんな! 本当に任務だから」
「え~、でも任務は今日の会議と遺族訪問で終わりでしょ? 明日はフリーなんだから船に乗るまではデートできるじゃない」
「明日は公爵のお屋敷に行くの」
「……それ、任務なの?」
「うん。バルネフェルト公爵は多大な寄付をしてくださるから、調査兵団にとっては最優先事項よ」
「あ~、聞いたことあるわ。“貧乏調査兵団の資金集め” ってやつか。大変だね」
資金集めなど一切関係のない憲兵団所属のリーゼの声には、哀れみに似た感情が入り混じっていた。