第29章 カモミールの庭で
「リーゼ?」
マヤはリーゼの頬が赤いことに気づいて。
「もしかして、その人のこと好きなの…?」
「やだな、そんな訳ないじゃん! ろくでなしの先輩ばっかのなかでは、ちょっとばかりマシってだけだよ!」
「ふふ、わかった」
リーゼの態度から少なからずアンドレへの好意を感じたマヤは、紅茶をひとくち飲んで微笑んだ。
「もう、何よその余裕な顔。“私はなんでもお見通しですよ~” みたいな!」
気恥ずかしさから勝手にカリカリしているリーゼが可愛くて、ますます微笑んでしまうマヤ。
「マヤの方こそどうなってるのよ。マリウスと」
「あ…」
マヤの微笑みが消えたことに、リーゼは全く気づいていない。
「夫婦喧嘩みたいにいちゃついてたのが、昨日のことのように思い出されるわ。マヤは鈍感だからマリウスのことをただの幼馴染みとしか見てなかったけど、私が思うにマリウスの方は…。ん? どうした?」
「……亡くなったの、マリウスも」
「……え?」
「壁外調査で…」
「……そうなんだ…」
「うん…」
「そっか、ごめん…」
その言葉に驚いて、マヤは顔を上げる。
「なんでリーゼが謝るのよ」
「だってザックだけでなくマリウスも亡くなってるなんて思わなかったから…。大丈夫? マリウスがいなくて平気?」
「うん、大丈夫だよ」
「無理してない? マヤは優しいから…」
マヤは泣き笑いのような顔になった。
「私ね、リーゼが思うような優しい子じゃないよ…」
……マリウスが死んで、ザックが死んで。
二人の想いを知っても、他の男の人に恋をして。
いつもどおりに生活して、笑って、兵長のことばかり考えている。
……そんな私が優しいなんて嘘よ。