第29章 カモミールの庭で
「どうなんだろ…。私は団長や兵長が女の人に対して鼻の下を伸ばしてるところなんて想像できないなぁ…」
「へぇ、そうなんだ」
「うん。貴族の舞踏会に出たことがあるけど、団長は誰に対しても礼儀正しかったよ」
セラとマヤは歩きながら話をつづけている。
「まぁそうか。団長も兵長も調査兵団の新兵勧誘式で見たけど、確かに鼻の下を伸ばすってよりは誰かれなしに首を斬りそうな雰囲気だもんね」
「えっ! そんな物騒に見えた?」
「見えた見えた。壁外調査で半分死ぬぞって脅かしてきたもん」
「あぁ…、そうだったね…」
マヤも遠い記憶を手繰り寄せる。
「私は憲兵団に行くって決めてたから他人事だと思って聞いてたけどさ、もうみんな真っ青になってたよ」
「そうだね…。うちもそうだった」
「だよね。今から勧誘するのにあれはどうよって感じ。っていうかマヤすごいね! 団長と兵長と三人で来たって言ってたけど、船の中とか馬車の中とか息が詰まらない? あんな怖そうな上司と一緒で」
「……怖い?」
ぽかんとしているマヤ。
「怖いって。何も知らないヒナみたいな訓練兵に半分死ぬぞと脅す団長に、人類最強で巨人を殺しまくってる無愛想な兵長でしょ? 絶対怖いって」
……そういえば私も最初は兵長のこと…。
目つきは悪いし、無愛想の無表情で、何を考えているのか全然わからなくて苦手だったなぁ…。
それがいつしか気になるようになって、胸をいっぱいに占めてしまって、好きになって、今では一番大切な人…。
リヴァイへの想いを心に灯せば、先ほど馬車の中で握られていた手が体温を思い出す。
ぼうっとしているマヤにセラは不思議顔で。
「ねぇマヤ、聞いてる? 怖くないの? 団長と兵長は」
「あっ、うん。団長は常に正しく導いてくれて尊敬しかないし…、優しいよ? お菓子をくれたりするし」
「お菓子? 嘘、想像できない…」
「本当よ。王都の美味しいお菓子を何回かもらった。兵長もいい人だよ」
「へぇ…」
セラはにわかには信じがたいといった疑わしい声を出していたが、一軒のカフェの前で立ち止まった。
「この店にリーゼがいるかも」