第29章 カモミールの庭で
足を止めていたリヴァイだったが、会議室に向かって階段を上り始めた。リーゼという女性の名前を確認して、安心した様子だ。
その女憲兵はリーゼを知っているらしい。
「リーゼね…。今日は確か、クリスタルブルーブの警ら隊に編成されてたと思うけど」
「クリスタルブルーブ?」
「王都で一番にぎやかな界隈よ。案内しようか?」
「いいんですか?」
「ちょうど今、手が空いてるから気にしないで。私はセラ、リーゼとは同室なの」
「あっ、私はマヤです。リーゼとは訓練兵時代の同期です」
「ならタメだね。敬語はなし! さぁ行こ!」
面倒見のいいセラに連れられて歩くこと20分少々、クリスタルブルーブに着くころには、すっかり気心が知れてしまった。
そして先ほどチェックインをして荷物を部屋に置いた調査兵団御用達の宿屋も、クリスタルブルーブにあることを知った。
「あっはっは、結局馬車で来た道を歩いて戻った訳だね!」
豪快にセラが笑い、マヤも宿屋を見上げながら。
「うん…。なんか馬車から見えてた景色と似ているなぁとは思ってたんだけど」
ところどころセラが裏道を通ってショートカットしたので、全く同じ景色がつづいた訳ではないのだが、最終的に宿屋の前までやってきて、セラが “このあたりからクリスタルブルーブだよ” と宣言したのでマヤは苦笑いをするしかなかった。
「宿屋は何軒もあるけれど、ここなんだ… 調査兵団が使うのって」
「私は初めてだから、いつもここかどうかわからないけど。どうして? なんか変なの?」
「以前巡回してたときに見かけたんだけど。駐屯兵団のお偉方が取っていた宿は、歓楽街の中にある宿だったんだ」
「歓楽街…」
「いわゆる夜の街でね。クリスタルブルーブの奥の奥のディープなところにあるんだけど。兵服着てると商売女にちやほやされるから、鼻の下伸ばしてるみたいだよ」
「………」
「だから調査兵団のお偉方も、てっきりその宿なんだと思った」
と言いながらセラは、ごくごく普通の、健全な場所にある健全な宿屋を見上げた。