第29章 カモミールの庭で
石畳のせいで揺れる車内で、気持ちも揺れ動いて不安そうにしているマヤの手をリヴァイは握った。
「もう悩むんじゃねぇ。ザックのためにも」
「……ザックのため?」
「あぁ。ザックの描くマヤは笑っていた。今の顔をザックが見たら悲しむ」
「……そうですね…」
「だから笑っていろ。俺もその方がいい」
「……え?」
リヴァイの最後の言葉の意味を確かめたくて、マヤはリヴァイの顔を見上げたが、今度はリヴァイが窓の外を眺めている。
その横顔が美しくて、何も訊けない。
ゴトゴトゴトゴト、馬車は行く。
つないでいる手が熱い。
結局マヤはそれ以上何も言うことができずに、馬車が宿に横づけするまでリヴァイの熱を感じつづけるしかなかった。
辻馬車が目的地に到着した。
マヤが一人でおりて宿の部屋へ、馬車に残ったリヴァイがそのまま憲兵団本部に行くことになっていた。
「……会議が終わったら迎えにくるから」
「あの、兵長。私は今から自由時間なんですよね?」
エルヴィンが “部屋は取ってあるから荷物を置いて、あとは自由にしていい” と言っていたことを思い出す。
「そうだが」
「じゃあ私も憲兵団本部に行ってもいいですか? 訓練兵のときの同期に会いたいです」
少しリヴァイは考えて、許可を出した。
「……いいだろう。待っているから部屋に荷物を置いてこい」
「はい!」
マヤは嬉しそうに宿屋に駆けこんだ。
しばらくして身軽になったマヤが再び馬車に乗りこんで、憲兵団本部へ向かう。
ゴトゴトと揺れている時間はマヤが思っていたよりも短い。宿と憲兵団本部は意外と近いようだ。
馬車をおりて、リヴァイが告げた。
「一緒に晩メシを食おうと思ってたが、仕方がねぇな。同期と楽しめばいい。あまり遅くなるなよ」
「了解です」
憲兵団本部の建物に入り、リヴァイは兵団合同会議がおこなわれている会議室に行くため階段の方へ。
マヤはきょろきょろと周囲をうかがってから、ちょうど通りかかった憲兵に声をかける。
「すみません」
マヤの声を聞いて、階段を上りかけていたリヴァイの足が止まる。
「リーゼ・エクハルトはいますか?」