第29章 カモミールの庭で
謝るのも何か違うとは思うが、ページを繰るごとに現れる自身の様々な顔、顔、顔にマヤの脳内は軽くパニックにおちいって、正常な判断ができなくなっている。
「謝ることはないわ。私たちは…」
祖母はメリーと顔を見合わせると、優しく微笑んだ。
「ザックがあなたを描いていたとき、幸せだったに違いないと思って感謝しているのよ」
メリーも祖母の言葉にこくこくとうなずき、言い添えた。
「マヤさん、ありがとう」
ゴトゴトと揺れる馬車の中で、マヤは窓の外を眺めていた。
ザックの遺族訪問は無事に終わった。
遺品を渡して、遺族からの想いを受け止める。その想いとは悲しみや憎しみに満ちている場合が多いなか、今日は感謝されてしまった。
どことなく複雑な気持ちがマヤを支配している。
……私のおかげでザックが幸せだったとメリーさんもおばあさんも言うけれど…。
本当にそうだったのかな?
私はザックの想いを拒絶しているのに。
そんな私にご遺族から “ありがとう” と言われる資格なんてないのに…。
王都中心部にある宿屋に向かって走っている辻馬車の中で、マヤは遺族の感謝の言葉を素直に受け入れられずにいる。
「マヤ」
向かいに座るリヴァイに呼ばれる。
「ザックのことは、家族が一番わかっている」
どうやらリヴァイは、画材屋を出てからずっとマヤがふさぎこんでいる理由がわかっているらしい。
「だから家族が “ザックが幸せだった” と言うなら、間違いなく幸せだったんだ」
「はい…」
「それに… スケッチブックの中のマヤは、どの顔も幸せそうだった。あんな風に描けるのは、ザックも幸せだったからだと俺は思う」