第29章 カモミールの庭で
カランカランと扉につけられた鐘が鳴る。
「いらっしゃい」
店の奥に座っていた年配の女性が立ち上がったが、
「あぁ…」
リヴァイとマヤの兵服を目にするなり、すべてを悟った様子でうなだれた。
「……団長さんから手紙をもらったよ。ザックの荷物を届けてくれたんだね。ちょっと待っておくれ、店を閉めるから」
女性は入り口の扉にかけられた営業中の札を裏返して準備中に変えると、店の奥にある自宅にリヴァイとマヤを案内した。
小さな部屋に通された二人はしばらく待たされたが、次に女性が現れたときには、女性と瓜二つの顔の中年女性と一緒だった。
テーブルの上にお茶をならべているメリーとおぼしき中年女性に、リヴァイは自己紹介を始める。
「兵士長のリヴァイです。こちらはザックと同期のマヤ。今日は遺品をお持ちしました」
「……ザックの母親のメリーです」
メリーはお茶をならべ終わると、椅子に座った。そして隣に座っている年配の女性を自分の母、ザックの祖母だと紹介した。
「数日前にエルヴィン団長から手紙が届いて、その…、信じられなくて…。あの子は父親が倒れたから調査兵をやめて、店を継ぐはずだったんです。小さな金物屋だけど、これから家族四人で暮らせるのかと…」
「はい…」
絞り出すような声のメリーの話を聞いているマヤとリヴァイ。マヤはところどころで、ただ “はい” と相槌を打つことしかできなかった。
「それが… セーブルが死んで、あの子まで…!」
悲痛な声を上げて泣いているメリーは、リヴァイが “ザックは立派な調査兵だった” と告げても、マヤが “大切な仲間でした” と伝えても、泣きやむことはなかった。
「堪忍しておくれ。この子はまだ気持ちの整理が…」
祖母が申し訳なさそうにしている。
「メリー、泣いてばかりいても兵士長さんたちが困るだけだよ。ほら、顔を上げて。ザックの遺したものを見てあげよう」
諭すようにそう言って、マヤが最初にテーブルの上に置いたザックの遺品の包みを手に取った。
真っ白な布を取れば、細々とした物が現れた。綺麗にたたまれた衣類。本が数冊。万年筆、鉛筆、木炭、スケッチブック。
「私が送ってやったスケッチブックだ」
祖母はやわらかい声を出して、スケッチブックをひらいた。