第29章 カモミールの庭で
「……メリーさん?」
鼻声の女給は小首をかしげた。
「メトラッハ村…?」
リヴァイとマヤは顔を見合わせた。
今までは全く考えるそぶりもなく、即刻知らないと返されていたので、今回は非常に脈ありに思えたのだ。
「ちょっとわかんないですね~!」
期待した分だけ、がっくりと肩を落としたマヤだったが次の瞬間。
「私、ここに来たの最近なんで。マスターに訊いたらどうですか? 呼んできますね~!」
そうしてくれとも、いや結構とも返事をする暇もなく、女給はバックヤードに行ってしまった。
「マスター! マスター!」
「なんだ、やかましい…」
バックヤードに通じる扉が開けっ放しなので、マスターと呼ばれた男性の面倒くさそうな声まで丸聞こえである。
「お客さんが訊きたいことがあるって言ってます~! どっかの… なんだっけ? えっと、メトなんとか村に行ったメリーさんを知らないかって」
「……メリー?」
しばらく沈黙状態がつづいて、ぽつりとマスターはつぶやいた。
「わかった。俺が対応する」
そうして店に出てきたマスターは、五十前後の体格のいい男性だった。
「メリーのことを知りたいのは、あんたらか?」
「そうです」
マスターはじろりとリヴァイとマヤを一瞥してから、店を出た。
「ついて来い」
「はい…!」
マヤは慌ててマスターのあとを行く。その後ろをリヴァイがぴたりとついている。
背後から叫ぶ鼻声。
「マスター! お客さんが来たらどうするんですか~?」
マスターは振り返らなかった。
「待たせとけ!」
ずんずんと先へ急ぐマスターの背中を必死で追いながら、マヤは謝った。
「あの…、すみません。お忙しいところを…」
「……あ? 別に忙しくないから気にするな」
マスターはイエローブの中心から離れて人通りの少ない狭い路地へ入ったところで急に立ち止まったので、マヤはつんのめりそうになった。
「ひゃっ」
振り返ったマスターは、腰に手を当てて仁王立ちだ。
「あんたら…、見たところ調査兵団の兵士だろ? メリーの息子はどうした?」