第29章 カモミールの庭で
「ホットと季節のアイスで~す」
ヤル気のなさそうなメニューに鼻声の女給、姿を見せないマスター。リヴァイとマヤの他には客のいない店内。
だが運ばれてきた紅茶の香りにリヴァイは驚愕する。
……こいつは相当な達人が淹れたな…。
リヴァイの考えたことは、マヤにも伝染したらしい。
……マスターと呼ばれた人は、紅茶の達人だわ。
「ごゆっくりどうぞ~」
役目を終えたとばかりに、女給はバックヤードに行ってしまった。
「いただきます」
リヴァイのティーカップには美しい色の香気を放つダージリン。マヤのトールグラスには薄いレモン色のハーブティー。
「美味しい…! カモミールティーだわ」
「アイスティーにするのはめずらしいな」
「そうですね。ホットのときよりも、さっぱりしています」
のどごしの良さからマヤはついひとくち、もうひとくちと飲み進んでしまい、もうグラスの半分しか残っていない。
「すげぇ勢いで飲むじゃねぇか」
「美味しくてつい…」
少し恥ずかしそうな様子で、冷たいおしぼりをもてあそんだ。
「このおしぼり、ひんやりしていていいですね」
「夏仕様なんだろうな。なかなか気が利いている」
「兵長の紅茶はダージリンですよね? すごくいい香りがします」
「あぁ…、セカンドフラッシュだ。シンプルだからごまかしようがねぇ。淹れたやつは一級の腕前だ」
美味しいティーブレイクを堪能した二人は、席を立つ。もっとゆっくりしたいのは山々であるが、なにしろ任務遂行中であるのだ。
カウンターの上に透明の瓶に詰められた茶葉がならべられていて、王都にしては良心的な値段のラベルが貼られている。
呼び鈴をチンと鳴らせば、すぐに奥から女給が出てきた。
「勘定をたのむ」
支払いを済ませたリヴァイは、隣に立つマヤを見る。すると即座にマヤは質問を始めた。
「すみません、このイエローブからメトラッハ村のグレゴリー金物店に嫁いだメリーさんを、ご存知ないですか?」