第29章 カモミールの庭で
エルミハ区を出たところで連絡船のカフェに行き、朝昼兼用の軽食としてサンドイッチを食べてはいるのだが、知らない街での聞きこみは予想以上に疲弊する。
英気を養うためにもリヴァイとマヤの愛する紅茶で喉を潤し、必ずザックの母親の実家を見つけたい。
二人は同じ気持ちを共有してうなずき合うと、数軒先にある紅茶屋に歩を進めた。
「いらっしゃいませ~」
木製の扉を押し開けると、鼻にかかった声で出迎えられた。
「お二人ですね? こちらへどうぞ~」
案内された窓際の席に座ってひと息つくと、冷水で絞った小さなタオルが運ばれてきた。
「まだまだ暑いですからね、どうぞ~。メニューはこちらで~す」
ひとつのメニューを二人で覗きこむ。品数が少ないので、迷うこともない。
メニューには “ホット、アイス、季節のホット、季節のアイス、日替わりケーキ” とだけ書いてある。
「……紅茶屋というよりは喫茶店ですね?」
マヤがささやけば、リヴァイも。
「……みてぇだな。俺はホットにするが」
「私は季節の茶葉が気になるから、季節のアイスにします」
リヴァイが鼻声の女給の方を見やれば、すぐにやってきた。
「お決まりですか?」
「ホットと季節のアイスを」
「お待ちくださ~い」
鼻声の女給はメニューを回収して、バックヤードに姿を消した。
姿が見えなくなっても、鼻声は聞こえた。
「マスター! ホットワン、季節アイスワン!」
それを聞いて、マヤがくすくすと笑う。
「何がおかしい」
「ワンワンってワンちゃんみたいだから」
リヴァイも笑う。
別におかしくもなんともないが、そんなことで笑っているマヤが可愛い。
「ケーキはいいのか?」
「はい。任務遂行中ですし」
少しおどけた表情で返したマヤは、声を落とした。
「なんとなく… 訊きそびれちゃいましたけど、いつ訊きましょうか…?」
「店を出るときに。今は紅茶に集中しろ」
「ふふ、了解です」
和やかに二人の時間が過ぎていく。