第29章 カモミールの庭で
王都の船着場に到着した。
辻馬車はすぐにつかまった。二頭立ての四人乗り。着座してまもなくエルヴィンが予定を話し始めた。
「イエローブには、じきに着く。マヤはそこでおりて、グレゴリーさんの家へ行け。私とリヴァイは憲兵団本部へ行き兵団合同会議に出席する」
船着場からゴトゴトと馬車が走っている道は、美しく整備された石畳。裕福な商人たちの邸宅が立ちならぶ界隈を抜けて、いよいよバルネフェルト公爵の敷地に差しかかる前に道が二手に分かれていた。
辻馬車は今までに行ったことのない方へ進む。すぐに種々雑多な商店が軒を連ねる商人街イエローブに入っていった。
辻馬車がとまったかと思うと、御者が扉を開けて告げた。
「イエローブに着きましたぜ、旦那」
エルヴィンは御者にご苦労とうなずいてから、マヤに指示を出す。
「遺品を渡し終わったら、馬車を拾ってここへ」
マヤに手渡した紙には、調査兵団がいつも使う宿屋の名前と番地が書かれていた。
「部屋は取ってあるから荷物を置いて、あとは自由にしていい」
「了解です」
マヤが馬車をおりると、すっとリヴァイも立ち上がって馬車から出た。
「俺はマヤと行く」
「何を言っている、お前は会議に…」
エルヴィンの言葉を最後まで聞かない。
「クソ会議は俺がいなくてもなんの問題もねぇ。だがザックの祖母の家は、このイエローブにあるということしか手がかりはねぇんだ。マヤ一人に探させるのは酷だろうが」
「………」
エルヴィンは束の間リヴァイの真面目くさった顔を見つめていたが、にっこりと柔和な笑みを浮かべてうなずいた。
「そうだな…、よかろう。だが遺族訪問が終わり次第、会議には顔を出せ。さもなければ許可はしない」
「……了解」