第29章 カモミールの庭で
「私とリヴァイはこちらを使うから」
甲板から船室に向かってしばらく歩いたところで、エルヴィンが立ち止まる。
「マヤの部屋は隣だ。エルミハ区を出たらカフェで落ち合おう。それまでは部屋で休め」
「わかりました」
マヤはあてがわれた二等船室の扉を開ける。一等船室のように寝台はない。部屋の広さは半分ほどで、船窓のそばに小さな椅子とテーブルが設置してあるだけだった。
荷物を置くと、椅子に腰をかけた。
……この景色も三回目ね…。
こんなにも短期間に三度も王都に行くとは想像もしていなかったマヤは、不思議な気持ちで景色を眺める。
しばらくそうやっていたが、ふっと窓から部屋の中へ視線を移した。部屋の隅に置いたボストンバッグの中には一泊する準備…、着替えやタオルなどの他にザックの遺品が入っている。
ザックの遺品はアーチボルドに渡されたまま、大きな白い布で包まれたままになっている。
見てはいけないという決まりはないのだが、なんとなくマヤは包みを開ける気にはなれなかった。
だがずっと、気にはなっている。
なにしろマヤが遺族訪問を任されたのはアーチボルド曰く、“遺された私物からマヤが行くのが適任だと分隊長が判断した” からだ。
……何が出てきたのだろう?
私への手紙かしら?
いや、違う。手紙なら、手紙が出てきたとはっきりと宛先の当人へ伝えられて渡すのが習わしだ。そして読む。なぜならそれは宛先の人に読んでほしいと故人が願っているものだから。
今回、手紙が出てきたとは伝えられていない。
……じゃあ一体なんだったのかな? 私への想いを綴った日記帳なのかもしれないわ。
もしそうなら…、もしそうでも…、やっぱり読む気にはなれない。
ザックはあのとき、面と向かって想いを伝えてくれたわ。
それで充分。
やっぱり遺品はあのままご遺族にお渡しするのがいいと思うの…。
そこまで考えをまとめるとマヤは静かに首を振って、ボストンバッグから窓の外へと、また視線を移した。