第29章 カモミールの庭で
「うん、そうだね。わかるよ!」
ペトラはマヤの気持ちにとことん寄り添ってから、こうつけ加えた。
「私がこれ以上訊かないのは、自分のためでもあるんだ。だから気にしないで」
「……自分のため?」
「だって私に彼氏ができたときに色々全部話すのは、やっぱ恥ずかしいもん!」
「あっ、そっか。そうだよね、恥ずかしいよね? 話すのって」
「うん、絶対無理! だからマヤにも訊かない。なんとなく色々あったっていうのがわかったら、それでいい」
ペトラは薄暗がりの中庭で、白い歯を見せて笑うとベンチから立ち上がった。
「部屋に帰ろう。マヤ、紅茶を淹れてよ。なんか喉が乾いちゃった」
「いいよ。ミントティーを持って帰ってきたから、それを淹れるね」
「ミントか。スッとしそうでいいね!」
スキップしそうな勢いで部屋に向かうペトラの背中を見て、マヤは思った。
……気を遣ってくれたのかな。
いつも優しいペトラ。大好きなペトラにも彼氏ができて、そういう “色々なこと” をなんとなくお互いに話せたらいいなぁ…。
「マヤ、早く!」
「うん、待って」
ペトラに追いつくために、マヤは駆け出した。
あっという間に一週間が経ち、王都に行く日がやってきた。
ボーーーッ! ボーーーッ!
連絡船の汽笛は9月に入ったばかりの朝靄を吹き飛ばすかのように、あたりに鳴り響いた。
甲板に立っていたエルヴィン、リヴァイ、そしてマヤの三人は、船がぐんぐんと速度を上げるのを確認するかのように黙って景色を見ていたが、やがてエルヴィンが口をひらいた。
「マヤ、今回は二等船室だ」
「あぁ… はい、了解です」
今まではグロブナー伯爵やレイモンド卿が用意してくれていた一等船室を使えたが、この日は調査兵団が自前で予約した二等船室だ。