第29章 カモミールの庭で
「ねぇ、どうなの? 兵長と…」
「ペトラ! 声が大きい…!」
中庭のベンチは普通の音量で話している限りは、よっぽど近くに寄らなければ何を話しているかは聞き取れない。
今のペトラの声はそんなに大きな音量でもなかったのだが、マヤには拡声器で世界中に向けて叫んだかのように聞こえたのだった。
マヤの気恥ずかしさがわかるので、ペトラも声を落とした。
「……ごめんごめん。だって気になるから。親と会うなんて、色々あったんかなって」
「うん…、そうだね…」
マヤはペトラに正直に話す覚悟を決めた。
「……したよ」
「したって何を? キス…?」
マヤはこくこくとうなずく。恥ずかしくて声も出せないし、目も開けられない。だから、ぎゅっと閉じて。
……とうとう言っちゃった。
どうしよう、もっと訊いてくるよね?
いつ? どこで? どんな風に? どんな感じ? どうだった?
ペトラの知りたいことは、できるだけ答えてあげたい。
でも、恥ずかしいよ…!
それに… いくらペトラと親友だからって、キスとか…、そういうことを詳しく話しちゃうのって兵長は嫌だよね…?
どうしよう、どうしたらいいの?
マヤは目を閉じて、頭の中がパニックで、次にペトラが訊いてくることを答えられるかどうかわからなくて。
そんなときに急にぎゅっと抱きしめられた。
「………?」
「マヤ、震えてる」
「……え?」
自分自身で震えていることに全く気づいていなかった。
「ありがとう、話してくれて。もう何も訊かないから大丈夫だよ」
抱きしめられていることによって、聞こえてくるペトラの声が近い。
「ごめん。興味本位で訊いたんじゃないのだけはわかって? 大事なマヤと兵長のことだから…。二人にはうまくいってほしいなって思ってるから。それだけなんだ」
「うん、わかってる」
ペトラの優しさが心にしみる。
「ありがとう、ペトラ。私の方こそごめんね。話したくない訳じゃないの。応援してくれてるペトラには話したいんだけどね、でもどこまで話せばいいかわからないし、それに…」
マヤは顔を上げて、ペトラの大きな瞳をまっすぐ見つめる。
「やっぱり恥ずかしくて…」