第14章 拒む
「ミケのところまで歩けるかい? それも無理なら、モブリットに伝達に行かせるけど」
「いえ、大丈夫です。すみません…」
マヤがふらふらっと立ち上がってトレイを持ち上げようとしたとき、モブリットがすかさず声をかけた。
「俺が片づけておく」
「え?」
マヤが隣に立ったモブリットを見上げると、やわらかそうな茶色の髪が揺れていた。
「そんな! 大丈夫ですから」
「ついでだから気にしなくていい」
モブリットは手早くマヤとハンジ、そして自身の食器をまとめると、カウンターに向かった。
「すみません!」
その頼もしい背中に謝ると、振り向きざまに優しくうながした。
「いいから早くミケさんのところに行け」
「はい!」
マヤはハンジとモブリットに頭を下げて、食堂を出た。
折しも時は、午前の訓練開始に向けて慌ただしさが増すころ。
それぞれの訓練場に足早に向かう兵士たちと逆行して、幹部棟へ向かうマヤは焦っていた。
急がないと、ミケ分隊長が訓練場へおもむくために執務室を出てしまう。
……痛っ…。
焦るマヤの気持ちと共鳴するかの如く、頭を襲う痛みも大きくなった。
ミケの執務室の前に立ったときには、頭痛に加えて全身も気怠さに襲われ始めていた。
コンコン。
ノックをしながら、扉を開ける。
執務机から顔を上げたミケが、意外な来訪者に眉を上げた。
「マヤ、どうした?」
そっと扉を閉めたマヤは、ふらふらと執務机の前まで行く。
「おはようございます。昨日はご迷惑をおかけしまして申し訳ありません…」
消え入りそうな声で謝罪するマヤの顔は、青ざめていた。
「いや、あれはハンジが悪い。あいつは新入りをつぶすのが趣味だからな。それに…」
ミケはニヤリと笑った。
「お前の酔っぱらった姿はなかなか興味深かったから、少なくとも俺は迷惑に思っていない」
「……そうですか…。良かったぁ…」
胸を撫で下ろすマヤの顔色は優れなかった。