第14章 拒む
「ところで大丈夫なのか? 具合が悪そうだが」
心配そうに声をかけながらミケは席を立ち、マヤの正面へ回りこむ。
「それが少し体調が悪くて…」
マヤが説明しようと口をひらいたのと、ミケがふわっとマヤの肩に両手を置き嗅ぎ始めたのは同時だった。
……スンスンスンスン…。
ミケはマヤの右の首すじから嗅ぎ始め、スンスンとゆっくり頭頂部に向かって鼻を蠢かせる。
………!
やだ…、私 昨日、お風呂に入ってない…。
マヤは自身が匂うのではないかと羞恥を覚えた。
しかしやめてくださいとも言い出せず、じっとされるがままに立っていた。
ミケの鼻先が頭頂部より左に下りてきたあたりで止まる。
……スンスンスンスン…。
やたら念入りに嗅ぎ始めたミケに、マヤの我慢も限界に差しかかったとき、執務室の扉が出し抜けにひらいた。
マヤは扉に背を向けていたので、誰が入室してきたのかわからない。
しかしノックもなしにひらいた扉に、一人だけ思い当たる人物がいる。
「おい、朝っぱらから何をしてやがる…」
飛んできた声の持ち主は、やはりマヤの脳裏に浮かんだリヴァイだった。
リヴァイの冷ややかな声に、ミケはマヤの肩に手を置いたまま答えた。
「リヴァイ、お前の方こそなんの用だ」
問われた三白眼の男はツカツカと執務机まで進むと、手にしていた書類を叩きつけた。
「エルヴィンからだ」
ミケはマヤから体を離すと、その書類に目を通しフンと鼻を鳴らした。そして革の椅子に身を沈める。
「マヤ、左のこめかみが相当痛むだろう?」
ずばりと指摘され、マヤは驚く。
「え?」
「それに、立っているのも辛いほど身体もだるいんじゃないか?」
「はい…。でも、どうして?」
「フッ」
ミケの愉快そうに鼻を鳴らす音に、リヴァイの不機嫌そうな声が重なった。
「変態が…」
リヴァイには目もくれず、ミケはマヤに告げた。
「マヤ、今日は休め」
「はい。申し訳ありません…」