第29章 カモミールの庭で
……ファーランさんとイザベルさん…。
初めて聞くリヴァイのかつての仲間の名前。
「ファーランとイザベルは最初の壁外調査で死んだ。短けぇあいだだったが… イザベルが少しでも最後に兵団で、楽しい時間を持てたとしたら… それはヘンリーのおかげだ」
……そしてあいつらを死なせたのは…、俺だ…。
リヴァイは言葉にこそしなかったが、胸の奥底にある苦しい想いが疼く。
どれだけ時間が経とうとも、この心の疼きが消えてなくなることはない。
眉間に皺を寄せて黙ってしまったリヴァイの耳に届いたマヤの声は、たどたどしくも一生懸命リヴァイの心に寄り添おうとしていた。
「ヘンリーさんの… 優しさで… イザベルさんが救われたのなら…、私も嬉しいです…」
「………」
何も返してはくれないリヴァイに、マヤは焦った様子でつけくわえた。
「あっ、その、ごめんなさい…。イザベルさんのことを知らないのに…」
「いや、いいんだ。イザベルが生きていたら、きっとマヤとは気が合ったにちがいねぇから…」
リヴァイのその声がイザベルを想う優しさにあふれていて。
「もしかして…、前に夕陽の丘で言っていた鳥や馬にいつも話しかけていた仲間… ですか? イザベルさんは…」
「あぁ、そうだ」
「……そうですか…」
オリオンとアルテミスが仲良くならんで立っているのが見えてきた。
「私、今日ここに来て良かったです。ヘンリーさんとファーランさんとイザベルさんのことを知ることができて…」
「あぁ、俺もマヤに話せて良かった」
そう言いながらもリヴァイの胸はまだ疼いている。
消えない痛み。
刺さった棘…。
「兵長…?」
「マヤ、いつかまた俺の話を聞いてくれないか…?」
「ええ、それはもちろん… いつでも聞きますよ…?」
「……ありがとう」
かすかに微笑んだリヴァイの顔はどことなく淋しげで。
……兵長、何をお話してくれるのですか?
「オリオン、待たせたな」
愛馬に駆け寄るリヴァイの背中を見つめながら、マヤは胸に手を当てた。
……いつでも、どこででも、どんなお話でも私に話すことで、兵長のお気持ちが楽になるなら。
私は聞きますから。
待っていますね…!
「……アルテミス!」
マヤもアルテミスに駆け寄った。