第29章 カモミールの庭で
それは845年にエルヴィンが第13代調査兵団団長に、リヴァイが新設された兵士長職に就任した旨を知らしめる記事だった。
「……似てねぇな…」
「……でも、誰だかわかりますよ…?」
記事にはエルヴィンとリヴァイの似顔絵も添えられていた。エルヴィンは恰幅の良い体躯、広い肩幅、きっちりと七三に分けられた髪形、太い眉が特徴として強調されていた。一方リヴァイはエルヴィンに比べてまるで少年のように小柄に描かれ、眉間に刻まれた皺と鋭い眼光が印象的だ。
マヤは結構似ているのではないかと内心で思っていたが、リヴァイが似顔絵を気に入っていないようなので、それ以上は何も言わないことに決めた。
「お待たせいたしました」
女性が紅茶の盆とともに居間に戻ってきた。
「手狭ですが、どうぞお座りになって」
腰をかけて女性の手許を見つめていたリヴァイが、静かに話し始めた。
「ヘンリーが壁外調査で亡くなりました。今日はこれを…」
鞄からひとつにまとめられた包みを出す。
「………」
女性はテーブルの上の小さな包みを、穴のあくほど見つめている。
「……今日は暑いからあの子の好きな夏野菜の煮びたしを作ろうかと思って…」
マヤは先ほど見かけた買い物かごの中の、茄子ときゅうりを思い出す。
「八百屋で耳に入ってきました。調査兵が来たと。こんな田舎の街でその兵服は目立ちすぎます…」
「はい…」
どう反応すればいいかわからず、マヤは小さくうなずいた。
「私はヘンリーの祖母です。あの子は幼いころに両親を流行り病で亡くして…、私と二人でこの家で…。こんな狭い家で…」
ぐるりと居間を見渡して。
「近所に兄のように慕っている子がいて、調査兵団に入団しました。その子はすぐに亡くなってしまったわ。だからヘンリーはその子の想いを継ぐんだと調査兵に…」
「……そうだったんですか…」
相槌を打つマヤに、ヘンリーの祖母は優しい笑みを浮かべた。