第29章 カモミールの庭で
「うん? そういうのって?」
「だからその、ハンジさんが言う責任とかそういうのは…」
うまく言えない。
また “結婚” と言葉にしそうになる。
……結婚なんてこの場で言ってしまったら駄目よ。もし兵長がそういうつもりでうちの親に会うのでなければ、余計なひとことだもの。
マヤがリヴァイに気を遣っていると、いとも簡単にハンジがその気遣いを打ち破った。
「私の言う責任? あぁ、結婚かい?」
「………!」
ダイレクトに禁断の二文字を口にしたハンジのことを、マヤは目を真ん丸にして見つめる。
「嫌だな、そんな驚いた顔をしちゃって。当然じゃないか! 10歳以上も年上の、立場のある上司の男が、こんな可愛いマヤに手を出したんだろう? そりゃ私だってかたいことは言いたくないよ? 今どき手を出そうが何をしようが放置OKもありな世の中だ。でもね… 真剣に惚れた相手だったら、やっぱり最終的にはそういう形を取って添い遂げるのがいいんじゃないのかな。特にマヤのような、うぶなお嬢ちゃんだったら。だからリヴァイの行動は立派だと思うよ。あっ、ちなみに私は結婚は考えてないから」
「……へ?」
まくし立てるハンジの言葉に耳を傾けていたマヤは、最後の一文が理解できずに、首を傾げた。
「あの、最後のはどういう意味ですか…?」
「私は誰かに手を出されようとも、こっちが手を出そうとも結婚なんかしないってことだよ」
「……そう… ですか」
壁外調査での夜の出来事が、いわゆる責任を取って結婚するまでの行為なのかどうかもわからないし、リヴァイがどういうつもりで親に会うと言っているのかもマヤには想像できないし、でもハンジは責任を取って結婚だと断言するし、おまけにハンジ自身の結婚観は非常に冷めているし。
もう何がどうなっているかもわからなくなって、頭が混乱して泣きそうになっているマヤを見て、リヴァイの堪忍袋の緒が切れる。ハンジに今すぐ出ていけと怒鳴ろうとした矢先に、慌ただしいノック音と同時にモブリットがやってきた。
「分隊長! やっぱりここですか!」