第29章 カモミールの庭で
急に訊かれてマヤは戸惑ったが、素直に肯定するしかない。
「はい…」
「そうかそうか! リヴァイ! 私は感動したよ!」
「……あ?」
勝手に妄想話をふくらませて勝手に何かに感動しているハンジを、リヴァイは冷淡に睨みつけるしかなかった。
「あ? じゃないよ! 君は人類最強で潔癖症で嫉妬深そうで…、要するにどうしようもないチビだけれど…」
「おい!」
リヴァイは鋭く遮った。
そして、ぼそっとつぶやく。
「 ……嫉妬深くは… ない」
「そうかい? 絶対嫉妬深くて独占欲が強いと思うけどな。まぁそれは追い追いわかることさ! とにかく、君はどうしようもないチビだけれど…」
「フン…」
ミケが顔を背けて鼻を鳴らした。どうやら笑いをこらえているらしい。
……ハンジのやつ、“どうしようもないチビ” と二回言ったぞ。
「ちゃ~んと手を出したマヤに責任を感じて、ご両親に挨拶に行くんだね! 見直したよ!」
「……そんなんじゃねぇ」
「いやいや! そうだろ? 照れてるんだね、可愛いところもあるじゃないか。マヤ、良かったねぇ!」
満面の笑みのハンジが振り返る。
「………」
色々とマヤもいっぱいいっぱいで、何も返すことができない。
……手を出した… の? そうか、そうよね…? 兵長はその責任で私の親に会うつもりなの…?
でも責任ってなんだろう。
結婚…、いやだから結婚は違うって!
先ほどから結婚の二文字ばかり浮かんでくる自身の単細胞ぶりが嫌になるし、かといってハンジの言う “責任” の落としどころがよく理解できない。
マヤの頭は沸騰してしまいそうに熱くなっている。
あたまのてっぺんから湯気が出そうな勢いで真っ赤になっているマヤに、ハンジはさらに話しかけてきた。
「リヴァイの行動は立派だけれど、そう簡単にほだされては駄目だよマヤ。まずはマヤがリヴァイとどうなりたいか、そしてご両親の意向も大事だ。真面目な君のことだから大丈夫だとは思うけれど、しっかりとよく考えて…」
「あの、ハンジさん!」
たまらずマヤは叫んだ。
「そういうのじゃないと思います!」