第29章 カモミールの庭で
「あの…、兵長もクロルバに…?」
気づけば疑問がそのまま口に出た。
「ちょうどいい機会だから、親御さんに挨拶をしねぇとな…」
「えっ!」
今の今まで、この瞬間まで、リヴァイが自分の親に会って挨拶だなんて事態を考えたこともないマヤは心底驚いてしまった。
……挨拶? なんの?
えっとこういう場合、小説だと…。
マヤは今までに読んだ恋愛小説を必死で思い浮かべる。
つきあっている人が親に挨拶をするという場面は…。
結婚? いやまさか。
結婚を前提におつきあいうんぬんってやつ?
いやだから、結婚なんかそんなの違う。
……何? なんなの?
リヴァイの真意がわからなくて、マヤはプチパニックだ。
その様子はリヴァイにも、よく伝わった。
なにしろマヤは大きな目を白黒させて、口もぱくぱくしている。
「……なんだよ、嫌なのかよ…」
「いえ、嫌とかじゃないですけど…。ちょっと意味がわからなくて…」
「……あ?」
マヤの態度や言葉に、段々リヴァイはイライラしてきた。
「だってあの、うちの親になんの挨拶…?」
「なんのって…。つきあってることに決まってるだろうが」
……なんのもクソもねぇ、それしかねぇだろうが!
「駄目です!」
即刻完全に否定されて、今度はリヴァイがめずらしく目を白黒させている。
「おい、駄目って一体…」
「だって私、兵長のこと親に言ってません。そんなの、いきなり一緒に帰ってつきあってるなんか知ったら…!」
「……知ったら?」
リヴァイの低い声がマヤの言葉を繰り返した。
「驚きます…」
「あぁ、そうだろうな」
いきなり強く否定されて少なからずショックを受けたリヴァイだったが、否定の理由が “まだ親に知らせていないから” だと知り安心する。
「マヤ、俺たちは真剣につきあっているんだろう?」
突然の思いがけない質問に頬が赤く染まる。
「……もちろんです…」
「なら、いつかは親御さんにも知ってもらわねぇとな…」
「それはそうですけど…。恥ずかしいし…」
マヤは両親とリヴァイがならんでいるところも、話しているところも、ましてやつきあっていると報告するところも全くなにひとつ想像できなくて。
そんなとき、ノック音が執務室に響いた。