第29章 カモミールの庭で
リヴァイが心配している様子で、じっと見つめてくる。
その強い視線を一身に受け止めて。
……兵長、いつもどおりだ…。
リヴァイからは全く気恥ずかしさのようなものや気まずさ、もしくは照れなどの感情は見受けられない。
だからマヤは、見張りの夜のことを気にしているのは自分だけなんだと感じて、余計に恥ずかしさがつのっていく。
……私だけ意識しちゃって馬鹿みたい。
それはそうよね、兵長にとったら、なんでもないことなんだわ…。
できるだけ自分があの夜のことを気にしていることを悟られないように、マヤは平静をよそおう。
「別になんでもないです」
もうリヴァイの顔を見ることはできない。
視線がからめばきっと、いくらなんでもないふりをしていたって心拍数は上がり、顔が真っ赤に染まって絶対普通ではいられない。
……そんなの、兵長が困るだろうから。
だって兵長にとったらあの夜のことは、なんでもないことなんだもの。
「……大丈夫です」
「……そうか」
手許の書類に目を落としたまま、なんでもないと答えたマヤにこれ以上不必要に訊く訳にもいかない。
リヴァイは明らかに様子のおかしいマヤのことが心配でたまらない。
入室してきたかと思ったら、妙にぎこちない様子で執務を始めた。
視線が泳ぎ、顔が紅潮していたように見えたので、リヴァイがちらちらと執務の合間にマヤをそっと気づかれないように観察していると、顔が赤いだけではなく呼吸も乱れ、仕事に集中できていない。一枚の書類の同じ箇所を何度も見返したりして、全然マヤらしくない。
だからたまらず訊いてみたが。
目を合わすこともなく “大丈夫だ” と。
そう言われてしまえばそれ以上はどうしようもない。
リヴァイは仕方なく、伝えなければならないと思っている話を始めた。
「マヤ、もう聞いているかもしれねぇが… ザックが死んだ」