第29章 カモミールの庭で
好きな女をものにするための前哨戦。
涼しい顔をして言っていたくせに。
“女なんて抱きたいときに抱ければ…それでいい” と。
それがどうだ。
いざ本命の女が相手となれば、手を握るのも髪を撫でるのも口づけをするのも…。
随分と時間をかけて、なかなか手を出さないものなんだな。
俺ならきっとすぐにでも…。
……当然だよな? やっと手に入れたんだぞ?
リヴァイへの言いがかりに近い理不尽な苛立ちがこみ上げてきて仕方がない。
マヤは気遣わしげにこちらを見ているし、適当な返事がとっさに思いつかない。
今の胸の内を正直に告げることだけは避けたい。
言える訳がない。
見張りの夜にマヤとリヴァイに何があったのか知りたい… というか知っている。
想像したくもないが、あの朝に嗅いだ匂いが忘れられない。
そして自分でもよくわからないが、リヴァイに腹が立っている。
マヤへの想いは変わらずにあっても、マヤの幸せのために心よりリヴァイとの関係を応援しているはずなのに。
なぜリヴァイに怒りを感じる?
そんな自分自身にも苛立つ。
「……分隊長?」
黙って眉間に皺を寄せているミケのことが心配になってきて、マヤはもう一度声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ…」
なんとかうまくごまかせないものかと焦ったミケの目に飛びこんできたのは、執務机の上にあるいつもの新聞。
……そうだ。
ミケは急いで新聞をひらいた。
「……今日の問題が気になってな」
……嘘だ。気になんかなっていない。
でも今はこれしかないような気がした。これがマヤの心配を吹き飛ばす、ただひとつの方法な気がして。
「“頭の体操” ですか?」
……やっぱり正解だった。
マヤの声が弾んでいる。
「あぁ、ちょっと待ってろ。今、読むから」