第29章 カモミールの庭で
たった数分のあいだに、つい先ほどまで全く予想すらしていなかった帰郷が決まった。
故郷のクロルバ区から少し離れて位置するザックの村へ、遺品を届けに行く。そしてその足で実家へ帰って一泊する。
こんな予定になることを、どうやって想像できたであろうか。
「ちょうど中断されたことだし、このまま休憩しようか」
ミケの提案で普段よりは幾分か早いが、紅茶を淹れることになった。
マヤはいつもどおりにリヴァイの分も用意したが、今日は顔を見せないことはわかっていた。
なんと言っても今日は壁外調査の帰還の翌日。リヴァイは兵士長であるからして、やはり通常よりも多忙なのだ。
「……早く手伝いに行きたいか?」
マヤが休憩に来れないリヴァイを想っていると、ミケの声が聞こえてきた。
「……え?」
「リヴァイのところに。そういう顔をしていた」
「そうですか…」
……顔に出ちゃってるんだ…。
マヤは自身の想いを読まれてしまったことが恥ずかしくて、少し頬を染めた。
「でもちゃんと分隊長のお手伝いをしてから、兵長のところに行きますから」
「あはは、そうしてくれ。俺の方はマヤに手伝ってもらわないと、どうしようもないからな」
リヴァイのことになると、すぐに顔が赤くなるマヤを愛らしいと思いながらミケは笑った。
そしてほんの少し、からかいたくなる気持ちをぶつけてみる。
「ところでマヤ、エリー城での見張りなんだが、リヴァイと一緒に下りてきたな」
「………!」
もともと薔薇色に染まっていた頬が、もっともっと赤くなる。
「あの、それは…。兵長が突然上がってこられて、すごくびっくりしたんですけど…」
「そうだろうな、俺もリヴァイがこっそりと塔に入っていくのを見かけたときは驚いた」
「……こっそり… ですか」
「今ここにリヴァイがいたら俺は蹴られていたな。こっそりじゃねぇってな」
「あはは…」
ミケに蹴りを入れるリヴァイの姿が容易に想像できて苦笑いをする。
「約束していた訳ではなかったのか。てっきり待ち合わせでもしていたのかと…」
「違います…!」
「あはは、わかったよ」
……そうか、リヴァイと約束していたのではないのか。
なら、リヴァイはいきなり逢いに行ったのか。
気持ちを抑えきれずに…。