第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
……なんだか急にすごく幸せな気分。
マヤは自然と微笑みがこぼれる。
「わかりました。ギータには言いません。兵長が怒るから」
「……怒ってねぇが」
「怒ってますよ? じゃあギータとあの扉のことで色々とおしゃべりしても…?」
「それはやめておけ」
「ふふ」
マヤはくすぐったいような幸せな気持ちがふわふわと、自分とリヴァイのあいだに生まれるのを感じた。
「くだらねぇことを言ってないで、早くここを出るぞ」
リヴァイにうながされて螺旋階段を下りる。
出入口の扉が見えてきた。
「……兵長」
マヤの足がもう一度止まる。
「来てくれて… ありがとうございました」
それ以上の言葉が出てこない。
急に夜霧が立ちこめて不安になった気持ちも、リヴァイが来てくれたから大丈夫だったこと。地下街の話をしてくれたこと、一緒に行こうと言ってくれたこと。互いの気持ちをあらためて知れたこと。
夜明けを一緒に迎えたこと。
そして。
……初めての口づけをしたこと。
言葉にならない深く熱い想い。
でも幸せな気持ちを共有したことを、言葉にしたい。
そんな想いで口にしたありがとうだった。
「………」
リヴァイからの反応はない。
……どうしよう、駄目だったかな? ありがとうなんて変だったかな?
でもこのままここから外に出て、あの時間が何もなかったようになるのは嫌だから。
そうマヤが強く心に想ったとき。
「……逢いてぇからな…。これからもいつだって行く。マヤも来い」
「……はい!」
絡んだ視線は熱を帯びて。
今は体は離れていても、心はバルコニーで抱き合ったときのようにひとつだから…。
そういう確信がリヴァイにもマヤにも芽生えて。
「……出るぞ。あいつが待ってる」
「……あいつ?」
マヤは少し考えてから扉を開ける。
「あぁ、分隊長のことですか?」
その言葉が終わらないうちに、ミケの声が高いところから降ってきた。
「俺がどうした?」