第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
一方、螺旋階段を無言で下りていたマヤとリヴァイは。
「……兵長、今気づいたのですが」
「なんだ」
「バルコニーに出るとき、窓から来てませんよね?」
「あぁ、普通に扉から出たが…?」
「……そうですか」
コツコツと二人の靴音だけが石造りの尖塔の内部に響く。
「それがどうした…?」
「ギータとあの扉を使う人がいるのかなと話していたので…」
「………」
それでなくても交代要員の新兵に、リヴァイと二人きりでいるところを見られて恥ずかしかったマヤは、普通の精神状態ではない。
無言で螺旋階段を下りるのに耐えられなくて、なんとなく北側の窓側にあった小さな扉のことを話題にしてみたが、リヴァイの沈黙で余計に気まずくなってしまった。
なんとか空気を変えようと。
「あの扉… かなり小さくて、かがまないと通れないから。窓から行き来できるのに、わざわざ小さな扉の方を使う人がいるのかなって…」
「……ここにいるが」
リヴァイの低い声がますますマヤを焦らせる。
「あはっ、そうですよね…。ギータに言わなくちゃ、扉を使う人がいたよって…」
「おい」
不機嫌そうな低い声がさえぎる。
「そんなくだらねぇ話をいちいちするんじゃねぇ」
「………」
余計にリヴァイの機嫌が悪くなったとマヤは困ってしまったが、リヴァイの次のつぶやきに思わず立ち止まった。
「……ったく、ギータギータとうるせぇ…」
「兵長…?」
「なんだよ…」
「もしかして…、やきもち… ですか?」
「……は?」
「だってそうでしょう?」
マヤは螺旋階段の下から上にいるリヴァイの顔を見上げた。
先ほどまで夜の見張りの人けのない尖塔のバルコニーにリヴァイと二人きりでいたところを、新兵に目撃されて恥ずかしくてたまらなくて。その場から逃げるように交代して、螺旋階段を駆け下りていたが…。
気恥ずかしさから逃れようと口にした言葉から、リヴァイのやきもちらしきものを見ることができるなんて。