第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「あっ、いえ…」
返事に困っているマヤの後ろからリヴァイが姿を現した。
「暇な誰かが馬鹿面さらして待ってるだろうと俺が言ったんだ」
「……ひどい言いぐさだな、リヴァイ。俺はただ、大事な部下の持ち場に闇にまぎれて忍んでいった暇な誰かが全然下りてこないから、気になっていただけさ。もう朝で交代の時間だしな」
ミケはわざとらしく、朝陽を見上げる。
「マヤ、大丈夫か?」
「……大丈夫です… が…?」
何が大丈夫なのかよくわからなかったが、とりあえず答えるマヤ。
「そうか、では部屋に帰れ。集合時間に遅れないようにジョニーたちを起こしてやってくれ」
「了解です。では…」
マヤは一度リヴァイの方を振り返り敬礼してから、ミケに頭を下げた。
「失礼します」
「あぁ、お疲れ」
ミケは、自身の声を背に去っていくマヤの後ろ姿を見送ってから、スンスンと鼻を蠢かした。
……スンスンスンスン…。
意味ありげにスンスンしてから、リヴァイを見下ろしニヤリと笑う。
そして再度、嗅ぎ始めた。
……スンスンスンスン…。
「おい、言いたいことがあるならさっさと言え」
「別に…」
リヴァイのイライラした声色にも動じずにいたミケだったが、すっと真面目な顔になる。
「だがリヴァイ、これだけは言っておく。マヤを泣かせたら許さない」
「……お前に言われる筋合いはねぇ」
「いや、ある。マヤは大事な部下だからな」
「ハッ、勝手に言ってろ。まぁ余計な心配だがな…」
“お前に言われなくてもマヤを泣かすようなことはしねぇ” とリヴァイは心の内でつぶやいた。
数時間後、調査兵団は帰路につく。
行きは奇行種一体にしか遭遇しなかったが、帰りはいつもどおりに何度か巨人との遭遇、回避、戦闘がおこなわれた。
数人の犠牲者が出たことも、いつもどおりだった。