第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
朝空を見上げると夜霧に包まれてもひときわ輝いていたあの星が、夜明けの星となってそこにある。
……マヤは俺の星だから。
そんな思春期真っ盛りの男子が考えそうな言葉が浮かんできて、ひとりで黙って頬を赤くする。
……この歳になって、こんなガキみてぇな気持ちになるなんてな。
それもこれも…。
腕の中の愛おしいマヤを見つめる。
……あぁ、この一瞬が永遠につづけば…。
リヴァイが甘い夢に溺れていたまさにそのとき、届いた声は。
「お疲れ様です!」
「「………!」」
気持ち良さそうに目を閉じていたマヤも、それを永遠のうたかたとして心に刻みつけるかのように見つめていたリヴァイも、跳ね上がらんばかりに驚いた。
「マヤさん…? あれ? いない…」
どうやら第二班の交代要員の新兵が螺旋階段を上がってきたらしい。
マヤは慌てて立ち上がると南の窓枠から顔を出した。
「外にいるわ」
「わわ! そこでしたか!」
バルコニーの存在を知らない新兵はぎょっとしている。
「うん。見張りにはバルコニーの方がいいから」
「なるほど!」
ギータと交わしたのと同じようなやり取り。
「交代ね」
「はい。マヤさん、夜の見張りお疲れ…◎△$♪×¥●&%#?!」
“お疲れ様です” と言いかけた新兵はマヤの背後にリヴァイがいることに気づいて声にならない叫びをあげた。
「へ、へ、兵長どうしてここに…? あっ、いやなんでもないっす! お二人で夜を一緒にお疲れ様でございました!」
動揺している新兵の反応が恥ずかしくて、マヤは顔を赤らめた。そしてそそくさと窓枠を乗り越えると、
「では、よろしくお願いします」
と交代の挨拶をして螺旋階段へ向かう。
「……了解しました!」
通り過ぎるマヤとリヴァイを、新兵は後ずさりしながら見送った。
「うわ~! すっげぇ特ダネ!」
早く見張りの任務を終えて、このことを同期に言いたくてたまらないと目を輝かせていた。