第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「……でも!」
まだ恥ずかしそうに無駄な抵抗を試みているマヤに、リヴァイは髪の匂いをスンスン嗅ぎながら質問した。
「じゃあ俺は臭いか?」
「そんな…! 兵長は臭くなんか全然ないです…!」
……臭くないどころか、とってもいい匂いがします…。
いい匂いがするという部分は言えなかったが、マヤは “臭くない” と慌てて否定する。
「……じゃあ一緒だ。マヤも臭くねぇ。俺にとっては最上級にたかぶらせる甘ぇ匂いだ」
リヴァイは自身の指からさらさらと流れ落ちている鳶色の髪をもてあそびながら、目を細めている。
その指が、声が、顔が、マヤにとっては破壊力がありすぎて何も言えなくなってしまう。
リヴァイに再び完全に身体を預け、頬を染める。
折しも空も朝焼けが紅に濃く染まり、早朝の太陽が輝かしい光をつれて顔を出した。
マヤの髪を幾度となく梳きながら、あらためてリヴァイは想う。
……この一瞬を忘れねぇ。
俺に身を預けて瞳を閉じて、髪をさわらせてくれているマヤを。
夜明けの光が鳶色の髪も、白く透きとおるような肌も、きらきらと輝かせている。
腕に抱くマヤのやわらかさも、指からこぼれ落ちる髪のさらさらとした感触も、気持ち良さそうに目を閉じている安心しきった顔も。
……マヤは俺が守る。
こんなにも愛おしい存在を、まるごと抱きかかえる朝がやってくるなんて知らなかった。
だが…。
守りたい、慈しみたいと想う一方で同時に、おのれの肉欲が強く反応していることも事実だ。
でも今はまだ色欲をぶつけるよりも、こうして朝の光の中で静かに寄り添う時間を大切にしたい。
そう心から強く湧き上がる想いを胸に秘めて。