第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
……クソッ、髪の匂いでこんなになっちまうとは、あいつと同じ変態じゃねぇか。
リヴァイはミケの顔が脳裏に浮かんできたので眉間に皺を寄せた。
自身の行為に少々嫌気がさしたリヴァイだったが、今自身の指に絡んでいるマヤの髪が、手ざわりも匂いも魅惑的すぎて。
……マヤが悪ぃ、こんないい匂いをさせてるから。
開き直って、マヤのせいにして、リヴァイは再び髪に鼻を押し当てた。
すぅーっと吸いこんで、はぁーっと熱い吐息を漏らす。
その単純で恍惚な行為を何度か繰り返していると。
「……ふっ、ん…。……兵長?」
マヤが意識を取り戻した。
「……気がついたか」
「ん…、私… あっ…、どうして…?」
目を覚ましたマヤは、自分がリヴァイに身を預けていることに気づいて驚いた。
「気を失っていたんだ。大丈夫か?」
「………」
目覚めたばかりのぼんやりとした頭で、マヤはゆっくりと記憶をたどる。
初めての口づけのあと、マヤが想像していたよりも深く激しく欲に溺れてしまった生々しい感触がよみがえってくる。
……そうだった。あのあと気絶してしまったんだわ…。
今ここにこうしてリヴァイに寄りかかっている事情は理解できたが、なぜリヴァイの指が自身の髪に絡んでいるのかは謎のままだ。
マヤがそのことを訊こうとする前に、リヴァイが髪を梳き始めた。
細長い指が…、人さし指、中指、薬指の三本が、つーっと地肌にふれるかふれないかの力加減で撫で上げたかと思うと、さらさらと毛先に向かって梳いていく。
その動作を繰り返され、マヤは身をよじらせた。
甘ったるい声が出そうになるのをこらえる。その代わりに気持ち良さそうに眉を八の字に寄せて目を細めた。
「……ん…」
また声が出そうになり、かろうじて吐息を漏らすにとどめた。
どうにもこうにもリヴァイの骨ばった指が、自身の髪の根元をすべっていく感触がたまらない。あたかも地肌や髪にも性感帯があるのではないかと思わずにはいられなかった。
……髪をさわられているだけなのに気持ち良くなるなんて恥ずかしい…。
その気持ちが強くて、マヤはなるべく声を漏らさないように気をつけていた。