第13章 さやかな月の夜に
路地の奥の “荒馬と女” のカウンターでは、二人の大きな男が酒を酌み交わしていた。
一人は金髪碧眼の眉目秀麗な男、片や砂色の髪に淡い緑の瞳を持つ背の高い寡黙な男。
「マヤは… 愛らしい素直な娘だな」
エルヴィンの言葉に、ミケは黙って目を細めた。
「……惚れたのか?」
「……何故」
「ずっと副官は男だっただろ?」
ミケは心外そうに、その小さな目を見開いた。
「やめてくれ。仕事に私情は持ちこんでいないつもりだ」
ミケの答えに、エルヴィンは悪戯っぽく目を光らせた。
「つまりは “私情” があると言っているようなものだな」
ミケは顔をしかめながら大きく首を振る。
「やれやれ、お前には敵わない」
「今日はやけに素直じゃないか。認めるとは思わなかったよ」
ミケはぐっとグラスを握る。
「エルヴィン、お前が思っているようなものではない」
それっきり口を閉ざしてしまったミケに、エルヴィンは酒を注ぎながら先をうながした。
「俺はお前みたいに口が立たないからな…。うまく説明できないが…」
ミケはマヤの笑った顔を思い浮かべながら、ゆっくりと想いを口にした。
「……ただ… 幸せになってほしいと思うだけだ」
「お前が幸せにしてやるのではなく?」
「エルヴィン、わかってるだろ。俺たちは明日もわからぬ身だ」
「あぁ… もちろん身にしみているさ」
エルヴィンの心に、かつて深く愛した女の面影が浮かぶ。
「それに…」
ミケは遠い出来事を思い出すかのような顔をした。
「もう… 誰かの心を無理に求めたりはしないと決めたからな」
「……そうだったな」
エルヴィンも何かを思い出したかのようにつぶやくとミケに向かってグラスを掲げ、ぐいっと飲み干した。