第13章 さやかな月の夜に
結局マヤは、そのまま眠りつづけた。
会はお開きになり、ハンジがやれやれ~と言いながらマヤを背負った。
ハンジはマヤが酔いつぶれたあと、例の葡萄酒の残り半分を一気飲みした上に、他の酒もガブガブと水のように飲んでいたが顔色ひとつ変わっていない。
さやかな月明かりが照らす夜道の下を行く、二つの影。
店で解散となり最初のうちはなんとなく皆が一緒に兵舎に向かって歩いていたが、飲み直すのかエルヴィンとミケは肩を並べて路地裏に消え、他の者ともいつしか距離がひらき、気づけばハンジはモブリットとたった二人で歩いていた。
「モブリット、マヤは結局誰が好きなんだ?」
唐突に訊いてきたハンジに、モブリットは少し考えてから答えた。
「さぁ…。特別な相手はいないってことじゃないですか? 言葉どおりにみんなが好き、上司や先輩としてみんなが好きって意味だと俺は思ったけど」
「だよねぇ…、ところでモブリット」
「はい?」
「私のことが好きなのかい?」
「………!」
モブリットは瞬時に自身の顔に血が上るのを感じた。
「ハンジさん、あれはマヤが酔っぱらって言ったことです」
「……だよねぇ」
「はい、そうです」
モブリットはまっすぐ前を見ながら歩きつづけた。
……今 分隊長の方を見たら、顔が赤いのを知られてしまう。
月夜でもそれとわかるほど赤くなっている自分の顔を、分隊長に見られたくはない。
「俺は… ハンジさんのことを尊敬しています」
「ん…」
ハンジはよいしょっと背中のマヤを負ぶい直した。
「そして… すごく大事に想っています」
「上司として… かい?」
モブリットは立ち止まったが、すぐにまた歩き始める。
「……そうです。上司として先輩として、ともに戦う仲間として」
「ありがとう」
ハンジの声があまりにも素直に響いたので、思わずモブリットは彼女の顔をまともに見てしまった。
眼鏡が月光に反射され、その奥の表情が読めない。
「モブリット、私も君と… 全く同じ気持ちでいるから」
「え…?」
立ち尽くすモブリットを置いて、ハンジはどんどん先を行く。
「早く~! 置いてくぞ~!」
「分隊長! 待ってください!」
慌ててハンジに駆け寄るモブリットの頭上には、淡い月影が微笑んでいた。